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第6話

夕飯の片付けも終えて、僕たちは自然に寄り添って窓辺に座った。 といっても狭い部屋だ。こたつに膝までつっこんだ状態で窓辺に到達できる。小さいこたつだから、並んで脚全部は入らない。あの頃も思ってたけど、狭い部屋は、自然にくっついていられるのがいい。 満月の夜だ。共に過ごせる夜がまた来ようとは。 窓の外に満開の夜桜が見える。 お互いの気持ちが手に取るよう。身も心もシンクロするような感覚。 心地よい。 これまでどうしていたかとか、 この先どうするのかとか、そんな野暮な話はしない。そんな事はどうでもよかった。 そして、ただ熱く熱くお互いを求め合う。 命の琴線が震えるような、 満たされる、 それでいて泣きたくなるような夜……  東の空が白みはじめ、疲れはてて眠るまで、僕らは何度も何度も愛し合った。 ずっと会いたかった…… こうして一緒にいると、あまりにも長い年月は、夢でも見ていたかのように現実感を失っていく。 そうして朝を迎え、あの頃みたいに、セージはトーストを焼き、インスタントのコーヒーを淹れてくれた。それから、午後の講義が終わったらまた会おうくらいの、そんな当たり前の挨拶とキスをして、 僕はハンドルを握り、研究学園都市を後にした。 嬉しかった。 ただ、嬉しかった。 バックミラーで、見えなくなるまで手を振るセージを何度も何度も見て、カーブ手前で窓を開けて手を振った。 渋滞する首都高を途中で降りて、下道で六本木へ向かう。慣れたルートだ。 都内の道は意外と変わっていないな。 目的地は、年の離れた弟がやっている小さなバー。店近くのコインパーキングに停めて、雑居ビルの階段を降りた。 「ミチル兄さん、お帰りなさい!」 弟が満面の笑顔で迎えてくれた。 「優斗、ただいま。元気だったか?」 その後ろからもう1人顔をのぞかせる。 「兄さん!」 「お! 暁星(あきら)、お前も来てたのか」 暁星は7つ下、優斗は14歳下の弟だ。 陰陽師の家を継いだ暁星は普段、瀬戸内の地元に住んでいる。 僕が飛び出したせいで家を暁星に押し付けた形になっているのは申し訳なく思うが、実際、天性の能力として、長男の僕よりも暁星の方が継ぐにふさわしいものであったと、歳を経るにつけ改めて思わされる。 本人も家業が気に入っているようで、それはそれでよかったのだろうと近年やっと思えるようになった。

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