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第23話 最高の
「最低……か……」
クスッと笑って、そして髪をクシャリと崩す。郁登は俯きながら、溜め息を吐いて、今どんな表情をしているのか、俺から隠すように、顔を上げようとしない。
「どうする?」
「え?」
俺の問いにようやく顔を上げた郁登の瞳は濡れていた。その理由が後悔ではなく、残酷な自分への涙なんだと思いたい。
出て行きたくないけれど、この場合は出て行くべきなんだろう。
「なんで? だって、今日」
「じゃあなんで泣いてんの?」
さっき彼女が出ていった扉に郁登の身体を押し付けて、そのまま両手で逃げ道を塞いだ。濡れた瞳が俺をじっと見つめている。
あんたが今、傷心だとしても、こっちはそうじゃない。ここに来たのはただ飯を食って、寝泊りするためじゃないんだ。
「俺って最低だ」
「は?」
郁登は壁に押し付けられながら、そう呟いて、そして俺のシャツをぎゅっと皺になるくらいに握って、そのまま引き寄せる。聞き返したのと、唇が重なったのはほとんど同時で、俺は目を瞑るタイミングを逃して、郁登の濡れた瞳をすぐそこで、睫毛が触れそうなほどの距離でじっと見つめている。
「んっ」
唾液が溢れるくらいに深く舌を絡めて差し込んでいるのは俺じゃない。郁登だ。
「美里と別れたばっかなのに、こんなふうにキスして」
「……」
「美里は泣いてたのに、この場に居合わせたせいで、あんたは気分が萎えて帰りたくなるかもって、そればっかりが気になってるなんて」
言いながら、郁登の唇は俺の肌だけを追い掛けている。たまにチリッと肌に痛みが走るのは、郁登がキスの痕をそこに落としているから。首筋の上のほう、シャツじゃ隠れなそうな場所にも感じる痕。
「健人、ん、ぁ」
「郁登?」
「長年一緒にいたけど、こんな感情を持ったことがないって、今更、実感するなんてさ」
壁に押し付けているのはこっちなのに、迫る勢いが強いのは郁登で、最初戸惑っていた俺の身体の中心は、その唇のせいで一気に熱くなり始めてしまう。
「さっき美里に詰め寄られた時、男同士とか色々考えたのに、結局俺は上手い嘘もつけない。健人みたいに冷静になれない」
「……」
「今ので、もう今夜その気がなくなったらって心配になった。美里とまだ別れてなかったのかって、呆れて、じゃあもういいってなるんじゃないかって」
郁登の熱い息が唇に触れて、もう眩暈が起きる。俺がその気にならないわけがないだろ。
でもそれを言う暇もないくらいに、郁登は俺を煽ろうと、キスの雨を止めようとしない。
「最低、ね……最高の間違いだろ」
「ん、あっ! あ、ぁ」
「ここ、こんなにさせて……興奮する。玄関だよ? 林原先生?」
「あ、ぁ、あゥ!」
ジャージの中に手を滑らせたら、もうそこは熱く湿っていた。扉にもたれかかったまま、喘ぎ声を我慢しようとしない郁登に、自然と舌舐めずりしてしまう。
「こっち来て……」
「ぁ、健人」
玄関でこのままするものいいけど、ひとつ先に言っておかないといけない事があるんだ。このセックスに敏感でやらしい身体をした郁登が、全くわかっていない事を。
「ん、健人?」
ひとり暮らし用の洗面所はバスルームと一体になっている。狭い密室に、少し大きい気もする鏡がある。
その前に郁登を立たせて、俺はその背後に立つ。
「あっ……ン」
そしてジャージを脱がせて、白くて爽やかなTシャツを捲り上げた。
「呆れるわけないよ。その気が失せるわけない」
「や、だ……ァ」
「水泳部の練習、今日がプールって知ってたんだよ。知ってて、こんなに派手にやらしい痕を付けたんだ」
胸の上まで捲り上げられたTシャツ。露になった上半身には、俺の残したキスマークが直視するには刺激が強すぎるくらいに残っている。この人が乳首に感じやすいってことが、一目瞭然でわかるくらいに、その周りに散りばめられた痕。
鏡の中の郁登は、そんな自分の肌をこんなふうに露出されながら、頬を染めて、唇を薄く開いている。
「こんなやらしい乳首、誰かに見られたら大変だ」
「あ、ヤァ……」
「女のよりもやらしいと思わない? ほら、こんなに尖って、抓って欲しそうで」
勃ってる、そう耳に吐息と一緒に吹き込んだら、郁登が薄く開いた唇をきゅっと閉じた。感じまくっているって顔を晒して、喘ぐ自分を見ないように、視線を下に向けるけど、それすらも俺は許してあげない。
ジャージのズボンを下着ごと少し下ろしてしまえば、興奮しているのなんて、すぐにわかる。下着を濡らしているくらいに先走りを滲ませているそこは、もうしっかりと形を変えて震えている。
「ここがこんなになるくらい、乳首が感じやすいんだから、こんなの晒したらダメでしょ? 林原先生?」
「あ、ァあっ! あ、ダメ」
「ダメ? 腰、振ってるのに? ね、Tシャツ咥えててよ。もっと触ってあげるから」
数分前まで元カノが来ていた。別れ話をして、彼女は泣きながらこの部屋を逃げ出した。追いかけもしなかった郁登は、今、快感に震える唇に、捲し上げられた郁登自身のTシャツを咥えさせられて、鏡の前で乳首をいじられている。まるで触ってっておねだりをしているみたいな格好に、自分から興奮して、気持ち良さそうに俺の掌に興奮の固まりを突き入れて、感じている。
「あ、ンっ!」
「乳首いじられてイきそう?」
「あ、あっ、ン」
ゾクゾクする。こんなせまい密室で、鏡の前にいる郁登を照らす、部屋よりも強烈な灯りの下で、夢中になって俺の手の感触だけを味わう姿に、俺のほうが切羽詰るほど夢中になる。きゅっと咥えたTシャツを噛んで、言葉を話せない郁登は切ない瞳を、鏡越しに、俺に必死に向けていた。
最低……なんだとしたら、それは俺だ。こんな最高の相手に、元カノを想う一瞬すら与えたくない。今頃、ひとりで泣いているだろう彼女に同情すらしていない。郁登の感じている表情だけに見惚れる。彼女は新しい恋人が目の前で、その最後の別れ話を聞いていることも知らなかったのに。この郁登を独占出来る瞬間を今か今かって待ち侘びて、彼女の残り香すらなくして、この部屋ごと全部を自分のものに出来ると喜んでいた。
「こんな郁登を誰にも見せたくないから、わざとこんなわかりやすく印を付けたんだよ」
「あ、あァァっ!」
まだ服を脱いですらいない俺の前で、半裸に近いほど、服を乱された郁登はそのやらしい乳首をコリコリにさせながら、指で受ける愛撫と、掌で扱かれる刺激に涙を溜めて、何度も腰を打ちつけている。
「郁登」
「あ、やっン! あ、んん、ァ」
「乳首をいじられて、イく姿、見せてよ」
包んだ掌を激しく上下に動かすと、郁登の声がより一層甘くなって、部屋よりも響くこの密室に充満する。先走りで濡れた掌が奏でる音と一緒に段々と大きくなって、眩暈がするくらいの刺激をくれる。
「あ、あ、ダメっ! あ、あ」
「郁登」
本当に最低で、最高だ。我慢出来なくなった郁登は咥えていたTシャツを離して、興奮した郁登の唇からTシャツには糸が引くほどの涎で濡れていた。
「やらしい……夢中になっちゃった? こんなになるまで咥えて」
俺がそうさせたのに、郁登は何を言われても、全部が快感に繋がるのか、甘く濡れた唇をやらしく開くと、何度も俺の名前を呼びながら、夢中になって掌の中に突き入れている。
張り詰めたそこを後ろから扱かれて、先走りをトロトロ流しながら、腰を卑猥に踊らせている郁登は、指で摘まれて押し潰されて、ピンと勃たせたやらしい乳首も見せ付けてくれる。そして女のよりやらしい乳首を突き出しながら、首筋に吸い付かれるキスを合図にして、その姿を、あの彼女は見たことがない姿を、俺の前でだけ披露しながら、鏡にかかるくらいに勢い良く達していた。
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