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2 食欲の秋

「まだおられますか?」 「あ、あー……いえ、もう帰ります。すみません」  押し倒す寸前。手を伸ばしたところで、出現したのは用務員のおじさんだった。慌てて荷物と一緒に郁登を引っ張って、急いで音楽室を出た。  あぁ、びっくりした。  そうだった。郁登の甘い声にすっかり忘れてたけど、用務員のおじさんが戸締りしたがってたんだ。教職につきながらも一人の人間として、早々の帰宅を望むように、用務員のおじさんも、用務に命を燃やしているわけじゃない。早く見回りと戸締りを済ませて、うちに帰りたいだろ。  あぁ、押し倒す前でよかった。いや――。 「ン、健人……」  三大欲求の一つ、性欲的にはちっともよくないけど。  爆発しそう。暴走しそう。用務員のおじさんの登場におあずけを食らった俺たちの「性欲」は膨れて腫れて、弾ける寸前。 「健人」  だから、そんな切なげな声出すなよ。うちまで。 「健人、したい」  あぁ、ホント、あんたはどうしてそう、気持ちイイことが大好きなんだ。 「うちまで、おあずけ、できないわけ?」 「ン、できない、も、触って」  最高すぎるだろ。  つい数時間前までは明るく元気な林原先生って、生徒にもかなり慕われてた男が、今、恋人とセックスしたくて仕方がないって、自分から服をめくってる。勃起した乳首を、車の中で見せてくる。 「エッロ……」  思わず、ごくりと唾と一緒に込み上げてきた熱を飲み込んだ。 「どうする? 郁登先生、車の中でする? それともおうちまで我慢できる?」 「あ、やだ、先生とか、今言うな。萎える」 「どこが」  おうちまで待てそうにないな。 「ガチガチに勃起してるじゃん」  俺が、あんたを抱くのをうちまで、我慢、できそうにない。 「あっンっ」  潤んだ瞳、欲しがりな唇はやらしい感触がするってもう知っている。あのピンク色をした舌で何度も濡らす仕草。運転なんてしたら、絶対に余所見をして事故りそうだから、これは、まぁ、致し方ない、だろ? 「あっン、ぁっ……ン」 「せっま……」 「ン、だって、今週一回も、セックスしてない、だろっ」  そう、残業続きで、しかもただ教えればいいわけじゃない。それ以外にもやらないといけないデスクワークが先生を待ち受けている。だから、本当に帰るのは遅くて、ヘトヘトだった。 「あぁぁっン」  そんな激務を五日連続でこなしたんだ、先生同士、甘いカーセックスしたって、恋人なんだ、そんくらい大目に見てもらったっていいだろ。  立ち寄ったのは収容者何百台可能っていう大型ショッピングモール。閉店間際のこの時間、駐車場の端の端にひっそりと停められてる車なんて、従業員のか、もしくは少し後ろめたい理由で停められた車ばかり。コインパーキングよりも無料のショッピングモール駐車場に停めてしまおうって思ったのかもしれない。 「あ、あっ、健人の指、すごっ」  もしくは俺たちみたいにやらしいことを急にどうしてもしたくなったのかもしれない。 「あ、そこ、もっとグリグリしてっ」 「郁登、何、今日、すげぇスイッチ入ってる」  淫らで卑猥なスイッチが。後部座席に移動した。こっちならスモークが張ってあるから、目を凝らしてよっぽど近づかないと車内の様子は伺えない。 「ン、だって、この指で、さっきピアノ弾いてた、ぁ、ン」  ずぶずぶと五日間何も咥えなかった肉を掻き分け抉じ開けられながら、郁登が背中を反らして喘いだ。 「すっごい綺麗な音を出す、すっごい骨っぽくて長い指。最高だった、ぁ、ひゃぁン」  俺には指に美味そうにしゃぶりつく郁登の中が最高だよ。スケベな身体。二本に増えた指に絡み突いて、孔の口でキュンキュンと締め付けて。 「健人の指、好き」 「……」  たとえ車内だろうと、外で股開いて、孔に指を入れられてる。入れられて喘いで、気持ち良さそうにペニスを勃たせてる。 「ん、んんんっ」  ローションいらないくらいに汁だくにしたペニスが、指を抜く瞬間、啼くようにヒクンって揺れた。 「郁登……」 「あ、来て、ここに、太いの、欲しい」 「……スケベ」 「あ、ン、だって、さっきの健人見たら、興奮するっ」 「光栄だね」  ペニスの切っ先を孔の口に押し付けると、感嘆とも、満足とも感じるとろりとした溜め息が零れた。そして、その溜め息に食らいつくようにキスをしながら、ペニスを郁登の中に突き立てる。 「ン、んんんんっ」  ゆっくり、全部、を。 「ン、健っぉ……あ、ン」  じっくり、ギリギリまで引いて。 「ンンンンッ!」  深く奥まで激しく突いた。 「あ、あっ、はぁっ……ン」 「中、きゅうきゅうしてる」 「あ、だって、これ、気持ちイイ」  涙を零して悦がる郁登は最高にエロくてとめられなくなる。透明で純粋な涙がポロリと零れてシートに沁みてしまわないように、目元にキスをしながら、腰を小刻みに突き入れた。ずぷずぷって、じゅちゅぐちゅって、中を深く浅く、揺らして、擦って、抉じ開けて。 「あ、健人」 「ん? 何」  郁登の好きな場所ばかりを攻め立てる。 「ホント、カッコよかったんだ」 「……」 「見惚れた、ぁっはぁっ」  額を汗で濡らして、柔らかい明るい色をした髪をこめかみに張りつけながら。 「俺の、健人って、ずっと、抱いて欲しいって思いながら、見てた」 「……」 「すっごい、セクシーだったんだもん」  だもんって、だもんってなんなんだよ。本当に。 「もっと激しくして健人っ、俺の奥までいっぱい、太くて硬くて大きいので可愛がって」 「やーらしー」 「ン、そう、やらしいんだ。だから、たくさんやらしいセックス、して」  そう潤んだ瞳でねだりながら、自分からも腰を振る、郁登にどうしようもなく、発情した。 「せんせー、ここ、もう一回教えてください」 「あぁ、いいよ」  あぁ、面倒くさい。けど、まだ、帰りたくは、ない、かもな。 「はい。じゃあ、もう一回」  季節の変わり目、風邪を引きやすい時期になりました。皆さん、うがい手洗いはしっかりと――って、校長が朝会で言ってたっけ。俺もそう思うよ。ね、用務員さん。  風邪、お大事に。 「オッケー、そしたら、次は……」  戸締りのことなら心配ご無用。 「はい、もう一回」  一番最後に帰ることになるだろう俺と郁登先生がしっかり戸締りしておきますから、ゆっくり、休んでくださいな。背後から背中を撫でるような甘い視線を感じて、思わず、口元が緩んでしまう。  振り向いたら、郁登はどんな顔で俺を見つめているんだろうと、ゾクゾクが止まらなかった。

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