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クリスマス番外編 2 空前絶後の

 現状として、怪しいだろ。  仕事の後、帰りは別々にしている。同じ学校に勤める教員、同性、の二人がシェアハウスって少し稀だし。  事実、恋人同士だし。  だから、郁登の帰りと俺の帰りはズラしてる。  ズラしてるけれども、そこまで違わないだろ? 二時間も違える必要ないだろ。  そして、帰って来た瞬間、いそいそとシャワーを浴びる。  シャワーを浴びてから飯食って、さっきシャワー浴びたんだからとベッドに押し倒すとほぼ寝てて。  あれだ。赤ん坊が飯食いながら寝てるのと似てる感じ。かまわず寝込みを襲うのはさ、なんかアダルト動画かよって言いたくなるくらい寝込みを襲ってる感がハンパないから、毎回そこでやめていた。  だがしかし。  だが、しかし、今日のはもっとひどい。 「って、もう寝てるし!」  思わず叫んだだろうが。 「……」  叫んでも起きねぇし。 「んがー」  んがー、じゃねぇよ。何を爆睡してんだ、おい。 「……気持ち良さそうに寝やがって」  欲望に忠実っていうのを忠実に実行しなくてもいいだろうが。何、人間の三大欲求の上位二位までを実行してんだ。帰ってきて風呂入って出てきたと思ったら、腹をぎゅーぎゅー鳴らすとか。晩飯バクバク食って、米粒をほっぺたにつけるとかそんなデフォまでこなしてから、気がついたら、すでに寝室のベッドに大の字で、んがんが言いながら熟睡とか。 「ったく」 「ん、がっ」  呑気な寝言とか。 「……」  三年目の……なんて、俺はイヤだぞ。  そう溜め息をついて、俺もベッドの中に潜り込んだ。 「あれ、珍しいっすね。金沢先生一人で飯っすか?」 「……」 「あ、また、眉間の皺ぁ! んもー、今日で終業式なんですからぁ」  呑気な大嶋先生の呑気な声すらちょっとイラっとする。 「そして! 今日は忘年会なんですからぁ」  忘年会なんてクソ食らえと教師らしからぬ暴言を吐いてしまいそうになるのをぐっと堪えて、一人、焼き肉弁当を口に放り込んだ。  あいつの好物の、行き着けスーパーでたまぁに出るプルコギ牛肉炒めだっつうのに。  マットの新品購入だっけか? なんか、そういうのが立て込んでるらしくて、忙しいんだそうだ。どこで飯食ってるのか知らないほど忙しいらしいですよ。  ――あー、俺、忙しくて、なんか弁当とかだと時間かかっちゃうからさ、しばらく、大丈夫。うん。  うん、じゃねぇよ。どこで食ってんだよ。そんで、それとほぼ同時にさ。 「すみませーん。こっちに保健の本間先生いますかー?」  いないんだよ。あの、ほわほわ系美人が。  職員室に来た女子生徒に大嶋先生が駆け寄った。お腹が痛いけれど、不在の札が下がっていたからこっちへ来たらしい。  けれどもこっちにも不在。郁登も不在。 「俺が行きますよ」 「え? でも、金沢先生、まだ弁当を……」 「行きます」  いないなら、探して捕まえよう、ホトトギス。もう字あまりがすごいけど、そんなのどうでもいい。 「大丈夫?」 「はい」  女子生徒を気遣いつつも、脳内ではイライラばかりを募らせて。もういっそ校内放送でほわほわ美人の本間教諭を呼び出してやろうかと思いながら歩いてた。そして、腹痛でふらつく女子生徒を連れてようやく保健室に辿り着けば、反対側から本間もやっと戻ってきたところだった。 「あっ、ごめんなさい! 不在にしていて」  だから、イライラしてるっつうのに。 「ごめんなさいね。今、鍵開けます。あ、金沢先生もありがとうございます」 「……いえ」  イライラ越えて、なんか、脳内が一瞬静まり返った。 「……ぁ、えっと」  だって、その本間教諭の隣にいたから。 「金沢先生、どうも」  わざとらしい挨拶をする、よそよそしい郁登が。  過去に、浮気というか、心移りならしたことがある。昔付き合っていた女性よりも、魅力的な女性に出会って、そっちに惹かれて、逢瀬を重ねたことはあった。  まぁ、あんまり真面目な男じゃなかったって自覚はある。  男なんて所詮、欲望のままに生きてるところがあるとも思う。セックスするのに恋愛感情が必要ないっていう男だってこの世にはいるだろうと理解はしてる。そしてそういうセックスをした事は一度もない、と言えない自分もいる。  不誠実な男だったと思う。  今までは、な。 「なんか、本間先生と林原先生って仲いいっすよねぇ」  忘年会。ホント、なんか仲いいっすよね。なんで二人並んで飲んでんすかね。 「保健と体育だから? なんか話が通じるとこがあるのかなぁ。あ、また顔がこーわーいーっ」  うるせぇよ。どこの女子コーコーセーだ。  教員の飲み会でだった。郁登との関係の始まりもこういう飲み会で、へべれけに酔っ払った郁登を押し倒したのが始まりだった。  ただの酔っ払い同士、ただやりたかっただけ、から始まった恋愛だった。  ――あれぇ? 金沢先生飲まないんすかぁ?  しなだれるように寄りかかってきたあいつに欲情して。  ――じゃあ……飲み直しますか?  そう尋ねる俺に頷いてついて来たから、そのまま抱いた。 「ぁ、こちらは飲酒しない組なんですよぅ」 「またまたぁ、本間先生、一杯だけでも」 「いえいえ、本当に飲まないので」  けど、そんな成り行きで繋げた身体だったけど。 「じゃあ、林原先生! 林原先生はけっこういける口ですよね! やっぱり運動してるからか代謝がいいんでしょうねぇ。前にご一緒した時は」 「あー、いえ、俺は」 「まままま」 「先生! 林原先生は」 「郁登先生」  今は、成り行きなんかじゃない。 「ちょっと、トイレ、俺、吐きそうなんで、付き合っていただけますか?」  こちとら、人生初の真剣恋愛。空前絶後の三年目突入目前。 「え……健人?」  お恥ずかしい話ですが、もうずっとラブラブ――だと思ってんだよ。

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