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クリスマス番外編 3 出ない出ない
「ぇ? あの、健人? 吐きそうなら、保健医の本間先生に」
「……」
「健人? って、うわぁぁ!」
慌てて、驚いている郁登のことなんてお構いなしでトイレへ引っ張り込んだ。無言で、狭っくるしい個室に郁登を放り込んで、自分も入ると、扉を閉める。
吐きそうだから、なんてあんなとってつけたような言い訳を信じてる郁登にもイラついた。見りゃわかるだろ。吐くほど飲んで酔っ払ってるかどうか。
酔ってねぇよ。酔えるわけねぇだろうが。
驚いている郁登に苛立って、思い切り拳でトイレの扉をぶん殴ってしまうほど。ほぼ教師とか、ここがその教師たちで来てる宴会場だとか忘れた。
「ちょ、健人、手、お前、音楽やってんだから手、大事にしないと」
扉についた手を、ぎゅっと握った拳をそっと郁登の手が覆う。
「気にしてくれんだ?」
「? そりゃ」
「あの保健の女教員に乗り換えるつもりなのに?」
「はっ? おま、何、言って、ちょっ!」
今度はその郁登の手を掴んで、トイレの壁に押し付けた。身体もくっつけて、吐息が触れるくらいに近く。
「なぁ、郁登……女なんて抱けんの?」
「ぁ、ちょっ、ここ、トイレっ……っ、ン」
「こんな」
「ぁ、あっ、あぁぁぁぁっ!」
「うなじにキスしただけで、乳首、おっ勃ててるのに?」
シャツ越しにもわかるくらいに乳首をツンと尖らせて、それを指先で摘んでやると、もっととねだるように硬くさせて、そして――。
「乳首、抓られただけで、勃起、させてるのに?」
「っなっ、だって、これはっ健人にっ」
「あぁ、俺に触られて、こんなに反応してるくせに、女抱けるのかよ?」
「ちょっ、待っ」
シャツのボタンを外せば、舌に可愛がられる快感を知っている乳首が期待を込めて膨らんでた。やらしい色をして、やらしく先端を硬くして、いじられる悦びを知っている乳首。
「ぁっ、ン……んんんっ」
それを口に含んでやると、頬を蒸気させて、郁登が身悶える。腰を揺らした拍子にトイレの壁をガタガタ鳴らして。
コリッコリになってる。女のそれよりもずっといやらしい性感帯になっている胸の粒二つをいじられてそんな顔してるのに、そんなたまらなくいいって声を上げそうになってるくせに。
「女、抱けんの?」
「ぁ、待っ」
「ここ、こんな硬くさせて」
「ぁ、あぁっ」
ズボン越し、パンパンに勃起してるのがわかるそれを手で撫でてやる。女のじゃない、男の大きな手で擦って、そして、乳首を吸ってやると切なげ声が聞こえた。トイレなのに、トイレで男にされてるのに、たまらなく気持ち良さそうにしておいて。
「待っ、って……んんんん」
懇願の言葉を無視して、ズボンの前をくつろげて、下着の中に手を差し込むと。
「郁登」
「あっ……」
濡れてんじゃん。
「あ、健人っ」
先っぽのところ、小さな口からとろりと零れた透明な液を指先でくるりとまとわりつかせて、亀頭を指で擦りつつ、そのカウパーまみれの指だけを離してみせた。
ツーッとねばつく糸が鈴口から指へと繋がる。
「あっ」
「乳首ちょっといじっただけで、カウパーダラダラ垂らして、やらしいシミ作ってんのに」
やらしい身体。気持ち良さそうにしてるくせに、乳首いじられて悦ぶくせに。
「女とのセックスで満足できるわけ?」
「ぁ、何、言ってっ、ぁ、ちょっ、ここっ」
「いやぁ、あの子、胸ちょーでかくね?」
「お前、おっぱい好きだなぁ」
郁登が目を見開いた。突然入ってきた誰か。呑気に男二人連れションしながら、今やってる飲み会の席にいる女の値踏みでもしてんだろ。
「そりゃそうでしょー」
(っっっっっっ!)
胸に齧りついて、乳首を口に含んで、郁登好みの強さで吸い上げた。腰をガクガクさせながら、喘ぎそうになるのを喉奥で一生懸命に噛み殺して、その度に身体の中に溜まっていく快楽の熱にまた感度が上がる。
「あぁ、やりてぇ」
「うわぁ、言い方」
「や、だって、今日、クリスマスだぜ?」
エロい郁登。
(勿体ない……この快楽を知らないなんて)
(っ、っ……っっ、っ、っ)
こっそり耳元で囁くと鼓膜でさえ性感帯だって顔をした。
そりゃ、そうだろ。何回、俺とセックスしたと思ってんの?
(なぁ、郁登、手の中で、射精、していいよ?)
「っっっっっっっっ!」
(郁登)
扱いてない、ただ精液が射精される時にあっちこっちに飛ばないように、男の大きな手で受け止めてやっただけ。
郁登をイかせた快楽は、俺の低い声と、乳首を抓る俺の指だけ。
「あっ……ぁ、ひ、と……」
「もう出ていったよ」
水泳で鍛えている郁登が息を乱して、肌蹴たシャツからの見える涎まみれの乳首を真っ赤にさせて、半裸のまま、射精後の余韻に酔っ払ってる。たまに、込み上げてくる快感の残りに息を詰まらせて、潤んだ唇をきゅっと結ぶ仕草にゾクリとした。
「早いな、イくの」
乳首いじってもらわなかった?
「そ、りゃ、久しぶりだ、から」
女には頼めないよな。乳首、イく時、抓ってくれ、なんてさ。
「それ、に、何? 女とか、一体」
こめまみに汗で濡れた髪が張り付いて、眉間に皺を寄せ、怪訝な顔の郁登がこっちを見つめる。乱れたシャツの裾をぎゅっと手で慌しい心臓をも掴みたいように鷲掴みにして。
「何? 女、抱けるとか、なんで、いきなり本間先生のこと」
「…………は?」
「?」
だって。
「養護、教員の」
「?」
だって。
「向こうに、乗り換えるんじゃ」
「は? ……はぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
トイレの個室に響き渡る叫び声。
「は? 何言ってんの? 乗り換えるって、俺が? 誰に? 本間先生に? は? ありえない! っていうか、俺、浮気を疑われたの? え? なんで? 意味わかんないんだけど! ありえない! マジで! ありえないんだけど!」
「ちょ、ちょっと、とりあえず、トイレから出よう」
「は! っていうか、ありえないって! 出ない、俺、納得いかないから出ないから!」
「いや、そうじゃなくて。トイレだから」
「出ない!」
ガキかよ。出ない出ないって。って……ガキは、俺か。
「最近、帰り遅かっただろうが。職場一緒だぞ? 二時間、空白の時間があるとかわかんだろうが。で、帰ってきたら、そそくさと風呂入るし、飯食ったら、そのまま寝るし。学校でも昼どっか行ってんだろうが。そんで、あの養護教員の……」
「……それで、浮気を?」
「……」
ここしばらく、俺がずっと零し続けてた重たい溜め息を今度は郁登が吐いた。
「帰りが、遅かったのは、ジム行ってたんだよ」
「ジム?」
「そ、そんで、汗臭いし、ジム通ってんのバレたらやだから、そっこうでシャワってた。そんで疲れてて寝ちゃう事が多かったかもだけど」
多いってレベルじゃねぇだろうが、毎日だぞ。セックス拒否かと思うほどだったぞ。
「本間先生は、その、ダイエットのこと、訊いてたから」
「は? なんで、郁登がダイエット?」
いらないだろ。こんだけ良い身体しておいて、なんで急に。
「健人が言ったんじゃん」
下着とズボンを中途半端に下ろしていた股間を見え易いようにと、シャツを捲る。おずおずと、恥ずかしそうに顔を背けながら。
「柔らかいって……尻」
「尻?」
「だ、だから、なんか、贅肉ついたのかもって、思って。太ったんじゃんって、なんか急に、やばいかもって慌てた。それで、引き締めようかと」
「は? なんで?」
「柔らかかったら、あんま気持ち良くねぇかもしんねぇじゃん」
「……」
「俺のケツの中」
普通、もう少しいやらしい単語で言うじゃねぇの? 色っぽいのとかさ。なんだ、ケツの中って、なんだよ。それ。
「それに、三年目じゃん。なんか、飽きられたら、ヤダなぁって思ってさ。ちょっと身体、もう少し引き締めたほうがいいかなって」
すげぇ、興奮した。
「大嶋先生、俺と、林原先生、先に帰るので」
「え?」
「ちょっと林原先生が具合悪いみたいなので」
「え? だって、吐きそうだったのって金沢せんせ」
すげぇ、きた。
「タクシー呼んであるので。それじゃ、お疲れ様です」
もう帰る。今すぐ帰る。帰ってそっこうで抱く。
照れくさそうに、もじもじとしながら射精したばっかのペニス見せつけて、いじられて赤くなった乳首も見せびらかしながら。
「あ、健人、タクシー来てる」
ケツん中で気持ち良くさせたいと上目遣いをする体育教師を目の前にして欲望が破裂するかと思った。
「あぁ、すみません。出発してください」
今すぐこの男をひん剥いて、そのケツん中でイきたくて、たまらなくて、タクシーの中でずっと繋いでいた手を離せなかった。
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