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第5話 忍の気持ち
正人は忍の両親から忍が元気が無い事を聞き、仕事終わりに来てくれたようで、朱色のネクタイが一瞬だけ見えた。
「なんで……?」
両親が家にいない事だけは知っていた。でも、まさか正人に鍵を渡してから出かけるなんて思ってもいなかった忍は、驚きのあまり声が出ない。
「泣いてるのか?」
「っ……」
返事を返さない忍。喋ったら、泣いて枯れた声を聞かれ、泣いていた事が分かってしまう。
「忍」
でも、正人が忍のベッドの端に座り、その時にベッドが軋む音を聞き、忍は潜った布団から顔を出して「帰れよ!」と正人に向かって叫んだ。
なのに、正人がそんな忍を優しく抱擁してきたのだ。忍は戸惑い、焦りを見せる。
「や、やめろよ! 俺、汚いからッ……」
「忍は汚くない。綺麗だよ……」
「嘘だ! 正人は知らないからだ! 俺が…俺が色んな奴と寝て来た事を知らないから……」
そんな事が言える。
「俺、知ってたよ」
「え……?」
「俺がゲイだとアイツに話した時、忍の事を聞いた。過去に教師に無理矢理抱かれた事や、それがきっかけで今でも荒れた日々を送ってるって事も……」
「そんな……」
「だから、初めて会った時、俺がどうにかしてやりたい。そう思った。でも、お前の姉とは恋人のふりを約束してたから、俺の本当の気持ちは言えなかった……ごめん」
「正人……」
正人は何も悪くないのに、忍の耳元で何度も謝ってくれた。そして、身体を少し離すと、忍の目をジッと見詰める。
「なぁ、忍。お前は俺の事をどう思ってる? 教えて」
「俺は……」
俺は。その先を言うのが怖かった。でも、左手の小指を見た時、その先を言う決心が少しだけ湧く。
「好き……正人が好き……。だから……汚い俺を許して……」
そう言って、縋るように正人の肩口に顔を埋める忍。そんな忍の頭を正人が優しく撫で、そして、チュッと優しく、涙で濡れた唇にキスをしてくれた。
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