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第12話

 突然、存在をこれでもかと主張するように携帯が鳴り出した。  うとうととしていた哲也は心底驚き、びくりと体を震わせた。 「びっくりしたぁ……」  独り言を呟きながら、携帯に手を伸ばす。画面を確認すると栗原からだった。部屋のデジタル時計で確認すると、もうすでに日付を越える寸前だった。  昼間の栗原との会話が頭に残っていたので、哲也は迷わずその電話に応えた。 「もしもし」 『あ、哲也?寝てたか?』 「いや、まだ」 『あのさぁ。今から行ってもいい?』 「は? 今から? お前、仕事は?」 『さっき終わった。明日、午後からだから。シフト』 「それなら別にいいけど……」 『じゃあ、行くわ』 「おお、分かった」  電話を切って、携帯をリビングテーブルに置いた。栗原が来る間、なんとなく落ち着かなくなって、観るつもりもないテレビを点ける。  こんな時間にわざわざ電話で断りを入れてから来るということは、会ってきちんと話したい何かが栗原にあるわけで。それはもちろん、陸関係のことだということは明らかだった。  ただテレビ画面をぼんやりと見続けていると。ピンポーン、とインターホンが鳴った。すぐにオートロックを解除する。そのまま玄関も解錠して、リビングで待った。  しばらくすると、がちゃっ、と玄関の扉が開いた音がした。リビングに入ってきた栗原を認めて、軽く挨拶をする。 「悪いな、遅くに」 「いや、いいよ。どうせ寝れなかったし」 「……そうか」 「うん」  栗原はそのまま慣れた様子で足を進めて哲也の隣にどさっと座った。 「なんか飲むか?」 「ああ……酒じゃないやつで。車だから」 「分かった」  哲也は冷蔵庫から炭酸水のペットボトルを取り出して、そのまま栗原に差し出した。栗原は礼を言って受け取ると、キャップを開けて、炭酸水を勢い良く喉に流し込んだ。ふうっと一息吐いたところで、ゆっくりと哲也の方を向いた。 「で、本題に入るけど」 「……おお」 「陸くんと一緒いた奴、知り合いだったわ」 「……え?」 「見たことある気がしてさ。病院で。ちょっと調べてみたら、やっぱりそうだった」 「同僚だったってこと?」 「まあな。でも、科も違うし、あいつは看護師だから。喋ったこともないし、顔見知り程度だけどな」 「そうか……」  陸の新しい男が栗原と顔見知りだったのには驚いたが、別に不思議なことはない。この辺に住んでいるのなら、こうして繋がることもあるだろうし。 「だけど、そいつ、どうも陸くんと合うとは思えないんだよね……。陰険そうで病院でも誰とも付き合いないし、それに……」  そこで栗原が少し言いにくそうにして言葉を止めた。怪訝に思い、栗原に続きを促す。 「なんだよ」 「ん……今日見た陸くん、辛そうな顔しててさ……ぜんっぜん楽しそうじゃなかったんだよね。その同僚の奴がぴったり隣にくっついて、カップルっていうよりは、陸くんが逃げないように捕まえてる感じ?」 「…………」 「で、調べてみたわけ。なんか胡散臭いから」  そしたらさ。そう言って栗原が一瞬だけ手にしているペットボトルに視線を落として再び哲也を見た。 「陸くん、事故に遭ってうちの救急に搬送されてたわ」 「……え?」 「交通事故。まあ、事故自体は大したことなかったみたいなんだけど。脳しんとう起こしてたから救急車で運ばれたらしい」 「それ……いつ?」 「……お前が、陸くんが家を出たって言ってた日」 「……嘘だろ」  予想もしていなかった事実に、哲也はそれ以上言葉が出なかった。  

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