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第4話
研究室でホッキョクオオカミについて調べていると、扉をノックする音が割り込んできた。顔を上げる。七時半。夢中になって時間も忘れていた。
僕は大きく伸びをしてから席を立った。
「やっぱりまだいた」
「ルドルフ」
目の前の男を見て、僕は驚きの声を上げる。
「どうした?」
「君がまた夜中に公園を訪れるんじゃないかと思ってね」
まさか阻止しに来たのかと訝ったが違った。
「俺も一緒についていく」
意図が分からず、僕は呆然とルドルフを見上げる。彼は肩を竦めた。
「一人で行くのは反対だと言っただろ」
「いや、――そこまでしてもらう必要は……」
「俺がそうしたいんだ」
ぴしゃりと断言する。
何を言っても引かなさそうな雰囲気に、僕は妥協するように吐息を吐いた。
「わかったよ。でもいないかもしれないし、長時間に居続けることになるかもしれないぞ」
「構わない。俺は明日、休みだしな」
彼は愉快気に眉を上げてみせた。
ルドルフの運転で僕らはそこへ向かった。
「こんな夜中じゃないといないのか?」
「わからないけど」
答えながら、僕はもぞもぞと落ち着きなく身体を動かしていた。彼のBMWのシートは落ち着かない。僕のワゴンアールとは比べ物にならない。
やっと慣れてくると、車内を埋めるルドルフの香りにまたたじろいだ。
同期だし、二人で飲みに行くことは何度もあったが、こんなことは初めてだ。突然、ルドルフを近くに感じる。そわそわするのはオオカミに対するものだと自分へ言い聞かせた。
僕の案内でルドルフは静かに車を停車させた。
「どこだ?」
フロントガラスからあちこち見渡しながら尋ねる。僕はシートベルトを外した。
「ここからは見えない。神社の隣だ」
相変わらず人気はなかった。今日も月は出ていたが、雲が多いので時々ぞっとする闇に包まれる。公園を覗き込んだが、オオカミの姿はどこにもなかった。
背後をついてきていたルドルフへ、僕は身体を傾けた。
「あそこにいたんだ」
中央を指しながら、僕は無意識に声を潜めた。
「いないな」
誰が見てもわかることを口にするルドルフを置いて、僕は慎重な足取りで中を探索した。神社以外は周辺を森に囲まれ、薄暗く、不気味な闇が挑んでくるようだった。僕は身を震わせた。
いつの間にか隣にいたルドルフが重く肩に手を置く。
「満足したか?」
僕は無理やり笑みを作ってみせた。
「全然」
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