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第5話
それから毎日、通い詰めた。時間が許す範囲でルドルフも一緒に。だが成果は得られなかった。
「さて、一週間経ったがいなかったぞ」
金曜日の終業後、僕の研究室の本棚の前で、ルドルフは唐突に切り出した。紫と橙のグラデーションに目を奪われていた僕は彼に視線を戻した。口を開きかけたが、彼の鋭い視線に口を噤む。
「白い犬か何かを見間違えたんじゃないのか?」
語気強く言い張られると、自分でも自信がなくなってくる。
「もう行くなよ」
僕の無言を返答と捉えたのか、彼はそう紡いだ。
「わかったよ」
僕は渋々首肯した。隣でルドルフが肩の力を抜くのを感じた。
「別にお前を苛めたいわけじゃない」
ルドルフの声は優しかった。宥めるように僕の腕を擦る。僕は意識の外で頷いた。
「わかってる」
そう言ってやっと現実に戻ったように隣に立つ男を見上げた。
「でもルドルフのしてる心配は杞憂だよ」
上目遣いに視線をやる。彼は不本意そうに首を振るだけだった。
まるで、あからさまな間違いに気が付かない愚かさを嘆くように。
一度は同意したものの、やはりあれを幻覚だと思い込むにはオオカミへの執念が強すぎた。そもそも、もし幻覚ならばすでに現れてくれていいはずだ。
しかしどれだけ経っても、僕の前に彼は現れなかった。
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