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第2話
結局、課題が提出されたのは夜の八時を過ぎた頃だった。
仕事がやっと一段落して帰宅準備をしていた時、パソコンが通知音を告げた。明日に回しても良かったが、今日中に終わらせておきたかったので、結局そのまま一時間、部屋に籠ることになった。
チェックを終えて大きく伸びをすると九時手前だった。窓の外は暗い帳が下りており、他の部屋の電気もほとんど消えている。僕は鞄を掴んで部屋を出た。駐車場で車へ乗り込む直前、不自然なほど明るいことに気が付いて顔を上げる。
雲のない空に、大きな満月が浮かんでいた。ほとんど白色に光って周囲を青く映し出す。その幻想的な光景にしばらく見惚れていた。
やっと車へ乗ると、人気のない駐車場を突っ切った。
僕の自宅は大学から車で二十分ほどの小さなアパートで山裾にある。夏はうだるほど暑く、冬は死ぬほど寒い。そのアパートへ向かう細い路地から少し奥まった場所に神社がある。おそらく氏神神社だろう。その隣に質素な、公園とも呼べない広場があるのだが、今夜はそこがなぜか意識に引っかかった。
ほとんど無意識の動作で車を停め、足を向ける。周囲に住宅はないので暗く、人気は全くない。ただ月明かりが僕を導くように道を照らしていた。
公園の入り口で足を止める。呼吸をするのも忘れるような光景に、目を奪われていた。それはこちらに気が付いていない様子で、横顔を向けて立っていた。
鼻筋がすっと伸び、細長い前脚を岩の上に載せている。全身を覆うふわふわした毛は月明かりに照らされて白く輝いていた。
オオカミだ。それも、真っ白なオオカミ。
シャープな頭を空へ向け、今にも遠吠えしそうな雰囲気だった。
僕はその場に立ち竦んで、美しい姿に魅入っていた。
その時、不意に彼――かどうかはわからないが、なんとなく――はこちらへ顔を向けた。まっすぐに僕を見据えるその瞳は鋭く、黄金に光る。
その視線に射抜かれ、僕は息をのんだ。
次の瞬間、さっと身体を背けると森の奥へ姿を消した。
高揚感でしばらく身動きが取れず、写真を撮るのも忘れていたことにはアパートへ帰ってから気が付いた。
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