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第8話

 ベッドへ寝かせて傷の具合を確認する。下腹部を撃たれていたが、幸い弾は掠っただけのようだった。白い毛は血と泥で汚れて濡れそぼっていた。  濡れたタオルで血を拭い、落ち着いた頃には一時間が経過していた。 「とりあえず病院に連絡して……」  汗を拭うと全身が血まみれになっていることに気が付いたが、後回しにする。スマホを探そうと身をよじった時、圧力がかかった。視線をやる。オオカミの長い前脚が僕の腕に乗っていた。 「どうした?」  僕は向き直ってその手を握るように掴む。微かに開かれた瞳は辛そうだが、焦点は合っていた。彼は僕を見つめてキューンキューンと必死に声を絞り出していた。 「怖いのか?大丈夫、怪我を診てもらうだけだ」  そう慰めて顔を背けると再び体重がかかる。今度は無理に起き上がって圧し掛かろうとするものだから僕は慌てた。 「わかった、とりあえず病院には連れて行かないから!大人しくして」  懇願すると、彼は静かにベッドへ連れ戻されてくれた。  安堵の吐息を吐いて、僕は立ち上がる。クローゼットの奥から救急箱を取り出すと、中身を引っ張り出して比較的清潔そうな包帯を見つける。  ベッドへ戻ると彼は片目を開けた。心配させない様、微笑を返してしゃがみ込む。  傷口に当てたタオルを取り、生理食塩水を含ませたガーゼで軽く拭いて身体に包帯を巻きつける。体温は戻っていた。呼吸も安定している。  巻き終えると、彼はそれで満足したように目を閉じた。僕の見守る前で小さな寝息を立て始める。  突如として襲ってきた疲労感に、僕はそのままベッドへ頭を載せた。  病院へ行くと言った時の反応も気に掛かるが、とにかく今は無事でいてくれれば……――そのまま、僕の意識は途切れた。

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