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第25章

「部活、くるだろ」 との石蕗からの言葉で豊高はうなづくと、もう放課後は部室に足を運ぶ他なかった。 部室に入ると、たくさんの人間がいるというのに、誰一人として顔を上げようとしない。ただペンをカリカリと紙に這わせる。 何時ものことながらそれが不気味だった。 しかし、石蕗が「おーっす」と部室に入って来ると、澱んだ空気は一掃された。 よく見れば、部員たちの中には一瞬石蕗を見て会釈する者もいる。 豊高は最近になって、暇を持て余し、テキストをぼんやり眺め少しずつ勉強を始めていた。すると、石蕗のしていることが朧げに分かって来た。 そこに面白さを感じ、他の部員と同じようにルーズリーフとテキストを机に並べるようになった。 「偉いじゃん」と石蕗が評価してくれるのも嬉しかった。 豊高はいまや、立派なコンピュータ部の部員だった。 あと30分程で下校時間になるという時、中肉中背の、中年の男性教師が部室にやってきた。人混みに紛れればあっという間に区別がつかなくなるような、これといった特徴のない平坦な面相だった。 「石蕗、これ配ってくれ」 これまた特徴のない、高くも低くもない声でいった。 石蕗はへーい、と面倒臭そうに返事をし、男性教師に渡されたプリントを配った。手渡されたプリントを見れば、情報処理検定の申込用紙だった。 「希望者は今週中に出してください。書き方は俺か先輩に」 それだけ言うと、男性教師は部室を出て行った。 豊高はじっと申込用紙を見つめる。 「書き方わかる?」 石蕗の声がし、顔を上げる。精悍な顔に黒縁の眼鏡がミスマッチだった。 「似合わねぇー・・・」 「コラ」 石蕗は笑いながら豊高の頭を軽くはたく。 「書き方分かりますよ。書き方のプリント付いてるし」 豊高はプリントをひらひらさせる。 石蕗は、「お、おう・・・そうか」と目を見開き、驚いた表情だった。豊高は眉をひそめ、 「・・・わかりますよ、これくらい」 と不機嫌そうな表情を作った。石蕗はハッとし、ニヤリと笑う。 「いやぁ、よく笑うようになったなって思ってさ」 「え?」 「いやいやホントに。不機嫌そうな顔がマイルドになってきたっつーか」 「すいませんわかりません」 冷ややかな目でバッサリ切り捨てる。 「まあ、前よりは全然よくなった。近づきやすくなった感じ」 「へえ・・・・・」 豊高はいまいちイメージが掴めず曖昧に返事した。しかし何と無く褒められていることは分かり、少し嬉しかった。 石蕗は机の上に置かれたプリントをトントンと叩く。 「ま、3級なら楽勝だよ。用語覚えてりゃオッケー」 「ふーん」 「がんばれよ」 豊高が頷くと、満足そうに石蕗は笑った。 そして、別の生徒に呼ばれ前の方の席に移動した。プリントを指差しながら何やら話している。 本当に、誰にでも平等に接しているように感じた。 不思議で、とても惹かれた。 姿を見るだけで暖かくなり、自然と顔が綻ぶ。 「・・・・・ニヤニヤしてる」 誰かの囁きが、耳に突き刺さった。豊高は思わず後ろを振り返る。周りに視線を送るも、皆机に突っ伏すような姿勢だったため誰が誰やらわからない。 「ホント気持ち悪い・・・・・」 また、どこからか聞こえてきた。 周りを見回しても、誰が言っているのか分からなかった。所詮陰口だ、と思い申込書に目を通すが、どうにも頭に入ってこない。石蕗が冷やかしにあった時のことを思い出す。この日は申込書を急いで書き上げると、すぐに部室を出た。 学校を出た後、いつものように徒歩で自宅に向かう。 学校周辺は住宅や個人商店が並び、申し訳程度に遊具が設置された小さな公園が点在していた。 携帯電話のゲームに熱中して歩いているうち、手元が暗くなり液晶画面の明かりに照らされていることに気づく。 ふと顔をあげると藍色の空に電柱に付けられた白熱灯が灯っていた。毎日のことなので、その度に暗くなるのが早くなったなと感じるのだったが、 「それ、面白い?」 吉野踊子の出現で、そんな感想は吹き飛んだ。 いつの間にか手元を覗き込む少女に、驚きのあまり声を上げそうになった。夕闇に突如少女が現れるというシチュエーションは怪奇じみており、少女の美しさが余計に不気味さを引き立てていた。 「な、なんスか?」 豊高は少し身を引いた姿勢のまま固まった。吉野は顔に何の感情も乗せていなかったが、くるりとした瞳をぱちくりさせる。 「ゲーム・・・・・まあいいや」 吉野は正面を向き並んで歩く。 豊高は吉野の意図が読めずただ混乱していた。携帯電話の画面には”ゲームオーバー”の字が光る。 その画面のまま携帯電話を折り畳みポケットにしまう。吉野は見れば見るほど整った顔で、整いすぎて人形のように冷たい印象を抱かせる。 高校周辺の住宅地を抜けると、駅前の大通りが賑わいを見せていた。 ファーストフード店や本屋、コンビニエンスストアのネオンが光り、他校生たちの姿もちらほら見える。すっかり葉を落とした街路樹は黒いシルエットとなり、まとわり付く電飾がチカチカと点滅していた。 コンクリートとアスファルトで固められた歩道に足を踏み入れ、豊高と吉野も学生たちに紛れた。 まるでカップルのようだと豊高は気恥ずかしくなり、罪悪感も感じていた。

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