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第1話 ①

 最寄りの駅から大きなバックパックを背負って川沿いを歩く。  目的の新居はその川沿いを少し行き、橋を渡って1分ほど歩くと右側にある。駅からも比較的近くて、アパートにしてはまだそれほど築年数も経っていない、外見も内装も綺麗な建物だった。  一ノ瀬圭太は足どり軽くその目的地を目指していた。  高校卒業して初めての一人暮らし。大学生なんて自分がなれるとも思っていなかっただけに、嬉しくて仕方がなかった。きっと自分は高校卒業と同時に、家族を養うため出稼ぎに行かなければならないと思っていたからだ。  そう、一ノ瀬家は貧乏だった。東京郊外のそのまた郊外ぐらいのところにこっそりと肩を寄せ合うように暮らしていた。  一家の大黒柱だった父親が突然交通事故で他界したのは、圭介が中学生の時だった。家には祖母と母、圭介と年の離れた双子の弟と妹がいた。祖母が腰を痛めてほとんど動くことができない中、母親が1人働き、圭介はアルバイトをしてなんとか生活を保っていたのだ。  圭介自身は部活もできず友達ともましてや彼女とすらも(奇跡的に中学も高校も彼女ができた)ろくに遊ぶこともできずにいたが、家族のために働くことはそれほど苦ではなかった。

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