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第1話 ②

 うざかったのは、死んだ父親が一ノ瀬家に入り浸っていたことだった。  勝手に母親の料理を盗み食いしたり(物は形として残るが味がスカスカになってマズくなる)、母親が見えないことをいいことに色々とセクハラまがいのことをしようとしたり(息子の前でやるな)、若くして死んだ無念さを徹夜で語ってきたり、そっちの方がある意味よっぽど辛かった。  自分としては、このままこの地で就職する流れになるだろうと思っていたのだが、なぜか勉強はあまり努力しなくても常にトップに近い成績だったのもあって、学校の先生には強く進学を勧められた。  それ以来、大学できちんと勉強をしてみたいと思うようになった。  自分が努力してそれなりの職業に就けば結果的に家族を助けることにもなる。有り難いことに、こんな境遇の自分に救いの手を差し伸べてくれる、奨学金制度なるものがあった。  幸運にもその対象として認められた圭介は、進学を決意したのだ。  弟妹たちも圭介が高校卒業すると同時に中学へと進学する。2人もできる限り母親と祖母の面倒を見てくれると言ってくれたことが後押しにもなった(父親と離れることができるのも)。  見事希望大学に合格したものの、そんな家庭の事情もあったため、本来こんな築年数の浅い洒脱なアパートには住むことは不可能なのだが。  実は、ある理由が条件で格安に賃貸契約を結ぶことができたのだった。  その理由とは。

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