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第1話 ③

 目的のアパートに着くと2階の一番奥の角部屋の部屋へと向かう。  209と表示された部屋の前で止まった。あらかじめ不動産屋から受け取っていた鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。  かちり、と音がして解錠されたのを確認すると、扉を開いた。途端に春らしくない冬のような冷気が内側から流れてきて圭介を包んだ。が、そんなことは慣れているので、気にせず中へと入る。  部屋は綺麗に清掃されていたが、前の住人の私物である家具などが残されたままになっていた。  不動産屋の話によると、前住人はここを借りて1週間で着の身着のままで退去したという。戻りたくないのでここにある物は全て処分してほしいと言われたらしいが、そのタイミングで圭介が物件を探していたため、家具付きでどうかとここを紹介されたのだった。  圭介にとっては家具があらかじめ揃っているのはとても有り難いことだった。  不動産屋にしてもここを借りてくれるのならば、そんなおまけを付けてもよいと思ったのだろう。それくらいここの借り手探しに苦労していたのだ。  そう。ここは、いわゆる事故物件だった。  聞いたところによると、昔ここで殺人事件が起きたらしく、それ以来、色んな幽霊が出るらしかった。  大抵の住人が1週間から1ヶ月ほどしか住まずに退去してしまう。随分と恐ろしい目に会った人もいるらしい。けれどもしそれでも借りてくれるなら、相場の半額以下で提供する。そう言われて、とりあえず下見をさせてもらった。  その時も入った途端、冷気のようなものを感じたが、はっきりとした霊は見えなかった。ただ、何か視線のようなものは感じた。しかも、上から下まで舐め回すように見られているような視線だった。  一瞬迷ったが、圭介にとっては幽霊云々を抜かせばここは他にはない最高の格安物件だった。  結局圭介はここを借りることを決めた。

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