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第2話 ⑤

 ふと、亜紀が消えていることに気づいた。 「あれ? 亜紀さんは?」 「お前がフリーズしてる間に帰った」 「そう」 「それより圭介、風呂入ったら? 臭いんじゃね?」 「ああ……そうかも」  圭介の働いている居酒屋は喫煙OKな場所を設けている。いつもはキッチン担当なのだが、今夜は人手が足りず喫煙ブースのホールを手伝っていたせいか、いつもより強いたばこの匂いが体に染みついていた。  樹は嗅覚がないので匂いは分からないのだが。疲れているのもあって、樹の言葉を素直に聞きそのまま風呂に入るために浴室に向かった。  もう夜中近いので随分迷ったが、疲れを癒やしたくてシャワーだけで済ませず、湯船に湯を溜めて浸かることにした。先に体を洗ってから、少しぬるめの湯に肩まで浸かってふうっ、と息をはく。 「あ~、気持ちいいわ~」  目を瞑ってしばらく至福の時を過ごす。疲れが湯に溶けていくようだった。  明日は大学の講義は3時限からなので、ゆっくり寝られる。久しぶりに夜更かしして溜まっている録画でもみようか(ちなみにHDDレコーダーは前の住人の物)。  そうぼんやりと夜更かし計画を立てていると。 「遅い」  耳元で急に声がして、驚いて目を開けた。顔を横に向けると、浴槽の縁に頬杖ついてこちらを不機嫌そうに見つめる樹と目が合った。

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