17 / 132

第2話 ⑥★

「おいっ! 入ってくんなよ! せっかくリラックスしてたのに」 「圭介が遅いからだろ」 「遅かろうと早かろうと俺の勝手だろ!」 「じゃあ、入って来るのも来ないのも俺の勝手」 「はあ?? なんだそりゃ!」 「ついでに言うと、もう待ちきれないのでここでやろうとするのも俺の勝手」 「は? え? 何? おわっ」  一瞬で。体が硬直したように動かなくなる。目だけで樹の動きを追った。  樹はいつの間にか裸になっていた。いつも思うが。樹の体はほどよく均整が取れて顔と同じく綺麗だった。男が見とれてしまうくらいに。  音もなく、浴槽に入ってくる。圭介の体の上に跨がり、上半身をぐっと圭介に傾けてきた。顔が近づいてくる。正面から目が合った。軽く睨んでやる。すると、樹が楽しげにニヤッと笑った。 「そんないじらしい目で見られると、余計燃えるわ」 「……変態野郎」 「あんまり口悪いと、また口きけないようにするけど?」 「……そしたら、俺の喘ぎ声も聞けなくなるけどな」 「……そんな返しができるようになっちゃって。成長したねぇ、圭介くん」  となぜか樹が嬉しそうな顔をした。今日の圭介は可愛いから、大サービス。そう呟いて、圭介に唇を重ねてくる。 「ん……」  最初のころは、抵抗していた。金縛りで動かない体で精一杯の抵抗をしていた。  キスされても、舌を絡ませるなんてまっぴらごめんだと逃げ回っていたし、乳首を攻められても、くすぐったい感触を我慢して絶対に反応しないようにしていた。  でもある時悟った。どれだけ抵抗したところで、樹は圭介が諦めて抵抗がなくなるまで毎回やり続ける。抵抗した分だけ長くなる。  ならば、とっとと受け入れて樹が満足するまで生気を提供したらいいのではないか。それに、これはセックスなんかじゃない(まだ挿れられてもないし)。ただの『奉仕』だ。生気がないと消えてしまう可哀想?な幽霊に自分の生気を分けてあげる、いわば、ボランティアではないか。ここに恋愛感情の『愛』はもちろんない。しかも、相手は幽霊なわけで。  だから。抵抗せずにとっとと終わらした方がお互いのために、余計な体力を使わない分、圭介にも都合がいい。  それから、圭介は最短時間で終わらせようと抵抗するのを止めた。それでも、樹は毎回金縛りを解くことはしなかった(たぶん、単なる樹の拘束趣味だと圭介は思っている)。

ともだちにシェアしよう!