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第3話 ⑥
「……この人、誰?」
数日後。バイト先から自宅へ帰ると。また1人、見知らぬ幽霊が増えていた。
「あ、初めまして~。僕、岡田っていいます」
分厚い眼鏡をくいっと上げて岡田と名乗ったその幽霊は、確かめなくても明らかにオタ系と分かる容姿をした圭介と同じぐらいの年齢に見える男だった。
「岡田……さん?」
「あ、さん、はいいです。岡田って呼んでください」
「はあ……」
「岡田は俺と同い歳」
「そうなの?」
「俺と大学で同期だったから」
「そうなんだ」
「学部は違いましたけどね」
樹と同期だというのになぜか敬語で岡田は答えた。
「で、その岡田……くんがなぜうちに?」
「岡田ってゲーム関係と機械関係に強いんだけど、アプリ開発してもらおうと思って」
「アプリ?」
「そう。今、結構、個人でやってる奴多いらしいんだけど。他と関わらなくてもできるビジネスっていったらこれかなと思って」
幽霊だから顔出せないし、ちゅーか、見えないし。そう言って樹が岡田とすでに練ったという構想を圭介に説明した。
それによると、樹たちが考えているビジネスは、多種多様なゲームアプリを色々な人々をターゲットにして開発し、ダウンロード数による課金で稼ごうというものだった。
内容としては、学生やサラリーマンをターゲットにした暇つぶしに最適なRPGゲームやパズルゲーム、女性一般をターゲットにした生活やファッションに特化したアプリなどだった。
通常は1つのアプリを開発するのに半年ぐらいはかかるらしいのだが、岡田も樹も当然のことながら無職だし寝る必要もないし、時間の全てを開発に注げるため、これを1ヶ月で成し遂げようとしていた。
もちろん、より多くの人にダウンロードしてもらうには最初のマーケティングリサーチは必須だ。それも、ネットと幽霊仲間のネットワークを駆使して最短で済ませようとしているらしかった。
圭介には全くの未知の世界だったので、説明を受けてもこれが本当にうまくいくビジネスなのか、こんなことが可能なのかどうかすら分からなかった。
「……内容はなんとなく理解したけど……でも……そんなんで稼げるわけ?」
すると、樹が心外だとでもいうように圭介を見た。
「俺の頭脳と岡田のスキルと幽霊ネットワークをなめんなよ」
「はあ……」
「まあ、1ヶ月は時間貰うことになるけど。あ、あとアプリストアの登録費は最初に要るからそれだけは圭介に出してもらうことになるけど」
「俺に出せる範囲だったら全然いいけどさ」
そんなわけで、よく実体が見えないまま圭介は登録費を樹に渡したのだった。
樹が岡田と2人、部屋で四六時中PC(圭介の)に向かってなにやらごそごそやっているのにも慣れたころ。大学の夏休みは終わり、再び学生生活が始まった。
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