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第3話 ⑨

「ただいまー」  挨拶をしてリビングへと入っていくと。樹と岡田が一斉にこちらを見た。 「おかえり」 「おかえりなさい」  亜紀の姿を認めた岡田の顔がみるみる歓喜の表情に変わっていく。 「亜紀さんっ」 「どうも」  亜紀はそっけなく返事をして岡田から少し離れて座った。岡田はそんな亜紀の塩対応に全く気にした様子もなく、亜紀をまるでどっかのアイドルにでも会ったかのように興奮気味に見つめていた。  その様子を圭介は怪訝に思いつつも、いつものように蒸し風呂のような部屋の中、部屋着に着替えようと浴室へと向かった。  そこで服を脱いで、タオルを水に浸して体を拭く。水道代(ガス代)を節約するためにシャワーもどうしてもの時以外は控えていた。ふと、後ろに気配を感じたなと思った瞬間、耳を舐められる。 「おわっ」  振り返ると樹が立っていた。 「おいっ。勝手に入ってくるなって言ってんだろっ」 「いいじゃん、別に」 「よくないっ」 「いや、なんか、ここずっと岡田とばっか一緒だったから。圭介が構ってほしいんじゃないかと思って」 「ほしくないって! 別居してるわけじゃないし」 「……ほんとに?」 「……何が?」 「ほんとに構ってほしくないわけ? 最近、キスぐらいしかしてないけど」 「…………」  確かに。岡田が入り浸りになってから、樹と2人きりになる時間は減った。圭介は相変わらず疲れていたし、樹もアプリ開発に頭を使っているせいか珍しく性欲が沸かないらしかった。  しかし、生気は定期的に補給しなければならないので、朝とか夜寝る直前とかにキスだけはしていた。そんな時、ちょっと盛り上がって(樹が)先に進もうかとする気配が見られるのだが、いつもそこで動きが止まり、樹の体は離れていった。  ほんのちょっとだけ。  それを寂しく思う自分がいた。  そこではっと、我に返る。いやいや、寂しいわけがない。そんな、別に付き合っているわけでも、ましてや恋愛感情があるわけでもないのに。完全なる奉仕なのに。 「んなわけないだろ」  そう樹につっけんどんに答えて浴室を出た。

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