39 / 132

第3話 ⑪★

 聞けば聞くほどハードルが高いような幽霊同士の恋愛だけど。未練や悔いを残して幽霊になった人たちだから。そんな小さな可能性に賭けてまで再び会いたいと思える人に会えるのは、ある意味とても幸せなことなのかもしれない。  亜紀も岡田もそして樹も。この世に何か引っかかるものがあるからこうしてこの世を漂っているのだろうし。 「なあ」 「何?」  ちょうど作業が終わったらしく、PCの電源を切りながら樹が答えた。 「お前はなんでこの世に留まってんの?」 「……なんでだろうな」 「留まってるってことは何か未練とか気になることとかあるんだろ?」 「まあ……早死にだったしな。未練は残るだろ、普通」 「そりゃそうだけど……。じゃあ、具体的に何があるってわけじゃないの?」 「……自分でもよく分からない」 「……そうなの?」 「別に、好き勝手やってきた方だったから。女に刺されたのも自業自得なところもあるし。まあいっか、って思ってたとこあんだけど。気づいたらここにいた」 「そっか……」 「だから。俺がどうしたら『成仏』できるのかも分かんねぇし、したいとも別に思ってない」 「したくないの?」 「別に……今は思ってない」 「なんで?」 「もういいじゃん。そんなことより」 「え?ちょっ……」  すっと音もなく樹が近づいてきて、圭介をベッドへと押し倒した。押し倒されながらかろうじて持っていたグラスをベッド下の床へと置く。 「急になんだよ?」 「ずっと、イチャイチャしてなかったじゃん」 「いや、イチャイチャじゃないし。奉仕だし」 「そう言う割には、いつも声上げてるじゃん」 「……それは、生理的な現象だから」 「とにかく。1ヶ月、圭介のために詰めて働いたから濃いのが要るんだけど」 「なんか……恩着せがましい言い方だな」 「恩着せてるから」  そう言いながら、樹が顔を近づけてきた。 「ん……」  唇が自然に重なって、舌が絡み合う。体が熱くなるに従って、じんわりと体から汗が滲み出るのを感じた。そこで、急に樹の唇が離れた。  ん?  そう思っていると、樹がすっとベッドから降りて、エアコンのリモコンを手にすると電源を入れた。 「おいっ」 「いいじゃん。ヤってる間ぐらい」 「だけど……」 「あとちょっと我慢すれば、死ぬほどクーラー使えるようになるから」 「ほんと、その自信はどこからくるのか……」  まだ儲かるかも分からないのに。  再び樹が圭介に跨がってきた。ニヤッと笑って圭介を見下ろしながら口を開いた。 「金が手に入ったら、思う存分、圭介に生気提供してもらうからな」  その樹の言葉に、先の状況を想像して圭介の背筋は文字通りぞっとしたのだった。

ともだちにシェアしよう!