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第4話 ①

「マジかよ……」 「マジ」  圭介は、自分の手の中にある、普段見ることもない銀行の預金通帳を信じられない気持ちで凝視した。 「凄くない? これ」 「まあな。予定よりちょっと時間はかかったけどな」 「でも……2ヶ月で500万って……」 「まあ、数も作ったからな。1つ辺りのアプリのダウンロードが1万以上になればこれくらいの収入にはなる」  樹はなんでもないような口調で答えて、PCの画面に再び向かった。  2ヶ月前の夏。圭介のかつかつの生活費が原因で圭介も樹も死ぬか生きるかぐらいの窮地に立たされたのだが。樹が幽霊仲間の岡田とタッグを組んで、アプリ開発ビジネスを始めたところ、みるみる内に収入が増えていったのだった。 「圭介の家族が一生安定して暮らせるにはまだまだ足りねーけどな」 「いや、でも、これだけでも俺、かなりビックリなんだけど」 「とりあえず続けられるだけ続けて、稼げるだけ稼ぐ。それでまたそれを元金として投資で増やす」 「そんなうまくいく?」 「いかせる」  自信たっぷりに樹が答えた。そんな半透明な樹の後ろ姿を見ながら圭介は尊敬に近い気持ちを覚えていた。  これが元?東大生の力か。まあ、岡田の力も大きいところではあるが。そこで、ふと疑問が生まれる。 「でもさぁ。樹が俺のために頑張ってくれるのは分かるんだけど、岡田くんはメリットないよね?」 「岡田は亜紀に会えればなんでもいいんだよ。俺と関わりがある限り、亜紀とも繋がれるわけだし」 「まあ、そうだけど……。ほとんど避けられてるじゃん」 「それでも、繋がっていたいんだよ。可能性が少しでもあればって。岡田は童貞だし、もう怖いものはないっていうか、背水の陣的なもんなんじゃねぇの?」 「え?? 岡田くんって童貞なの?」 「言わなかったっけ?」  樹の話によると、岡田は大学生になるまで童貞で、彼女はおろか、女の人に触れたこともほぼないらしかった。素人童貞になるのは絶対嫌だとムキになっていたらしいが、ある日ふと吹っ切れたらしい。別に素人童貞でもいいか、と。  そこで、人生初めての風俗へいそいそと大学からの帰り道に向かったらしいのだが。運の悪いことにそこで交通事故に遭い、あっけなく人生を終えたのだった。

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