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第4話 ②
「……岡田くん、可哀想……」
「まあな。幽霊になってからも女に触れるのには抵抗あるらしくてさ。経験ないから」
「樹って岡田くんとどういう関係だったの?」
「死んでから知り合ったんだよ。昔、ここに住んでる奴に色々やってた時、のぞき魔が現れて、それが岡田だった」
「岡田くんも浮遊霊なんだよね」
「そうだな。事故現場には未練なかったみたいだしな」
そんなわけで、最初は勝手に樹のテリトリーにこそこそ入ってきて覗かれるのをうざいと思っていたらしいのだが、よくよく話を聞くと樹でさえもその経験の薄さが気の毒になったらしく、覗くぐらいいいかと許したらしい。
岡田はその時の恩?を樹に感じているらしく、樹の舎弟のような扱いになったようだ。
だから岡田は樹に対して敬語なんだな、と納得する。そこでまた、新たな疑問が沸いた。
「ちょっと待てよ。そしたら、岡田くんって俺たちの……その……ヤってるとこも見てるってこと?」
「いや、男には興味ないから」
「ああ、そっか……。良かった」
以前、亜紀も時々覗きにきているようなことを言っていたので動揺したのだが。ここに岡田まで加わるとなるとさすがに抵抗があった。
「まあでも。圭介は女みたいな反応するし、可愛い系だし。岡田も興味持ったりしてな」
半分笑いながら樹が言った。
「ちょっと。なにそれ。俺、可愛くないし。女みたいな反応しないし」
「するって」
「しねえって」
「じゃ、試してみる?」
そう言うと、瞬時に樹が圭介の目の前に現れた。ニヤついた顔でこちらを見ている。
「……試さない」
「……試したいくせに」
そう囁いて、樹が顔を近づけてきた。あっという間に唇を奪われる。
もう今ではすっかり慣れてしまった、樹の唇の感触。
こんな生活を初めて半年が過ぎた。最初はあんなに嫌で仕方がなかったのに。少しずつ、樹を受け入れるようになって。
今では、こんな風に樹に触れられても全く抵抗はなくなっていた。いや、だからと言って、別に男が好きになったとか、樹が好きになったとか、そういうつもりは今もないけれど。
でも。
「ん……」
この気持ちのよい感覚は、麻薬のようで。働き詰めで他に彼女を作るチャンスもなかった圭介には魅力的なものでもあった。
圭介は自分の口内を優しく動く樹の舌に自然に追いかけ、捕まえて、そっと絡めた。途端に深いキスへと変わっていく。
しかし。この時、圭介は知りもしなかった。
この時間が失われる危機がすぐそこに迫っているということに。
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