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第4話 ⑩
駅までの道を、重い足どりで歩き出す。樹のあの悲しそうな顔が頭から離れなかった。たった一晩帰らなかっただけで、あんなに不機嫌になる樹の気持ちがよく分からなかった。
嫉妬?
そんな考えが頭をよぎるが、いやいや、と即座に否定する。まず、相手は幽霊だ。そこを忘れてはいけない。それに、樹との関係は生気提供が前提で始まったものなのだ。そこに情なんてなかったはずだ。借りに何らかの情が生まれたとしても。樹みたいな何でも揃った人間が(死んでしまったけど)、平々凡々な圭介に固執するわけがない。
だったら。どうして不機嫌になったのだろう。あれだろうか。自分のモノだと思っていたおもちゃが他人に取られたような気分というか。プライド的なものを傷つけられたからだろうか。
そうだとしても。それこそ圭介には知ったこっちゃないし。
自分は自分で、樹にちょっとキツく言われただけでなんであんなに腹が立って反論してしまったのだろう。
『口出すの止めてくれる?』
確かにその通りなのだが。あんなに強く樹に言うこともなかったのに。
とりあえず、普通にしていよう。何事もなかったかのように。求められれば抵抗せずに生気を提供しよう。それできっと元通りになる。
圭介は半ば自分に言い聞かせるように結論づけると、重かった足どりのスピードを無理やりに上げた。
ところが、物事はそううまくは行かなかった。
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