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第4話 ⑫

「ふぅん。あの樹がねぇ」 「俺、どうしていいか分かんなくて。確かに言い過ぎたかもしれないけど、何て言うか……俺、別に悪いことした覚えもないし。俺と樹は別に付き合ってたわけじゃないし。樹に文句言われる筋合いはないと思うんだよね」 「あれ? 付き合ってなかったの?」 「ないって! ただの……体だけの関係って言うか……あ、でも、最後までしてないから……」 「え?? 最後までしてないの??」  その事実に亜紀がもの凄く驚いた顔をして食い付いてきた。 「してないってば。亜紀さん、いつも話最後までちゃんと聞いてくんないから、説明する暇もなかったけど」 「マジでぇ? へぇ。そっかぁ」  1人何か考えながら亜紀が勝手に納得して頷いていた。 「なるほどねぇ」 「何が?」 「樹って……そうとう圭介くんに入れ込んでたんだね」 「は?? どういう意味??」 「だから。樹は圭介くんのこと、好きなんだと思うよ」 「……それって……」 「そう、恋愛の好きね」 「嘘……」 「嘘ついてどうすんの。たぶんさぁ、こういうパターン初めてなんだと思うよ? いつもほっといても相手が寄ってくんのに、圭介くんは鈍感で全く樹の気持ちに気づかないし、抵抗もされるし、あげくにはこっそり彼女まで作っちゃってそっちでヤっちゃってるわけでしょ? プライドずたずただよねぇ。それで、どうしていいかも分かんないんだろうねぇ」 「はあ……」 「……あのね、セックスって幽霊と人間同士がやると、大量の生気が取れて便利だけど危険もかなり伴うんだよ。人間に負担がもの凄いかかるし。誤って生気吸い過ぎちゃったら死んじゃうこともあるし」 「え?? そうなの??」 「うん。前にも言ったけどさ、樹ってね、そういうのも気にしなかったから」 「…………」 「自分のヤりたいだけやって、吸いたいだけ吸って。さすがに死なせることはなかったと思うけど、直前ぐらいまでは平気でしてた」 「最低じゃん……」 「うん、最低最悪野郎だったんだよ。でも、圭介くんにはしないんでしょ?」 「え?」 「最後までしてこないんでしょ?」 「まあ……」 「それってそいうことでしょ? 圭介くんを好きで、失いたくないから、最後までしない。たぶん、一度最後までしちゃったら自制できないと思ったんじゃない? しまくったら圭介くん死んじゃうし」 「そんな……」  樹がそこまで考えて圭介に最後まで強要してこなかったかもしれないなんてそんな風に考えたこともなかった。  ただ自分に最後までするような魅力とか、興味がないのだと思っていた。

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