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第4話 ⑬
「圭介くんは?」
「え?」
「圭介くんは、樹のこと嫌い?」
「……嫌いじゃないけど……」
「じゃあ、好き?」
「それって恋愛対象としてってこと?」
「うん」
「そんなこと考えたこともなかった」
「そっか……」
亜紀はニコリと笑って圭介を見た。
「まあ、どちらにしても、口出ししたのも圭介くんを苛めたくてしたことじゃないと思うからさ。圭介くんが好き過ぎてつい出ちゃったんだろうし。許してあげてよ」
「許すもなにも……あっちが無視してるわけだし」
「じゃあさ、圭介くんはどうしたいの?」
「え? 俺?」
「うん。無視され続けてるならもう『奉仕』しなくていいわけじゃん? それでいいって思っているのか、『奉仕』云々は置いておいてもやっぱり樹と仲直りしたいのか」
「…………」
そう亜紀に言われて考える。このまま、樹と話もせずに大学生活が終わるまで一緒に暮らすのか。
樹の自信に満ちた綺麗な笑みを思い出す。
あんな高慢ちきな笑顔さえも見られなくなるのか。
それは嫌だ。はっきりとそう思った。
「やっぱり……無視され続けるのは嫌かな」
「じゃあ、その今の圭介くんの気持ちを正直に全部言っちゃえば? 『奉仕』云々は置いておいても仲直りしたいって」
「うん……」
「じゃあ、善は急げ。ほら、もう帰ったら」
そう言って、亜紀が有体化させた手でポンッと圭介の背中を押した。そこで疑問に思っていたことを聞く。
「ねえ、亜紀さん。亜紀さんも生気保つために……その……」
「ああ、エッチしてるかってこと?」
「うん」
「私は別の方法で取ってるよ。まあ、エッチが一番楽で沢山取れるけど。人の生気って別にそういうのばっかじゃないし。怒りとか、喜びとか。色んな感情から生まれるから。喜びの中にエッチも入ってるかもだけど」
「じゃあ亜紀さんの方法は何?」
「私は大抵、パワフルな感じの人に憑いて元気な生気を分けてもらう感じかな。怒ってる人とか、あと強い恨み持ってる人の生気も結構凄いけど、陰険な感じが私の性には合わなくてさぁ。前向きでやる気のある人から貰った方がなんとなく気持ちいいじゃん?」
「なるほどね」
「例えば……岡田はたぶん、恨みとか持ってる人から取ってると思う。とり憑きやすいから。基本的に霊の方が弱いし、パワフルな人って強いから憑くのも一苦労だしね」
「亜紀さんはそれでもパワフルな人がいいんでしょ?」
「うん。私は幸い、結構力があるみたいだから。憑くのもそんなに大変じゃないし」
「そっかぁ」
「浮遊霊はね、移動ができるから選ぶことも簡単なの。だけど、樹みたいに場所に縛られている地縛霊は動くの大変だから、そこに来る人に頼るしかない。で、樹の場合は趣味も兼ねて色情霊になるのを選んだってわけ」
「そっか……。じゃあ、最悪、エッチしなくても樹だって他で生気を取ることもできないわけではないんだ」
「まあね」
今夜は随分色々と勉強になったな、と思った。まあ、生きている内に役立つ知識かどうかは分からないけど。
「ほら。帰んなさいって」
「ああ、うん」
ここでバイバイね~、と手を振る亜紀に挨拶をして自宅へと急いだ。
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