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第4話 ⑭

「ただいま」  真っ暗な部屋の電気を点けて、きょろきょろと見回す。  あ、いた。  樹が最近では珍しく姿を現したままベッドにごろんと横たわっていた。 「樹?」  話しかけると、顔だけこちらに向ける。その時。圭介の中で違和感が走った。いつもの樹とは違う、妙な感じ。 「……今日は帰ってきたんだな」 「……バイトだったから」  ここ2週間は樹といると息が詰まる感じがして、バイト以外の夜はほぼ由奈のところへ泊まっていたのだった。相変わらず何か違和感のあるセックスをしながら。  むくりと樹が起き上がった。顔つきがやはり違う。いつもより……なんというか、きつくて暗い感じがした。 「……どうかしたのか?」 「何が?」 「なんか……顔つき違うから」 「……ああ……たぶん、別の奴の生気取ったから」 「え……?」  別のって。それはどういう意味だろう。ここに誰か来たとは思えないし。でも別の奴から貰ったってことは。つまり。  上着を脱ぎながらそう思いを巡らしていると、樹が意味ありげな顔で口角を上げて尋ねてきた。 「ヤッたと思ってんの?」 「…………」 「そりゃ、まあ、当てにしてた奴は他で生気使い果たして役に立たねえし。他で補うしかないじゃん」  よく分からないけど。じんわりと嫌な気持ちが広がっていった。何に対してなのか。どうしてなのか。それも曖昧なまま。ただ、このいつもと違う樹が受け入れがたいのは事実だった。

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