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第4話 ⑱★

『気持ちいい?』  少し意地悪な顔をしつつも楽しそうに聞く樹の顔が浮かぶ。 『もう、嫌になった? 俺に奉仕するの』  不安そうな顔で圭介に確かめる樹の顔も。  そう、嫌だ。  だって。樹だから。樹とは。  ちゃんと向き合ったセックスがしたい。 「嫌だ……」 「…………」  樹がはっとした顔をして動きを止めた。 「お前……」  圭介は自分の顔が涙でぐちゃぐちゃになるのも気にせずに、樹を見上げた。 「こんなのは、嫌だ」 「…………」 「樹の馬鹿野郎」  ふっと、金縛りが解けた。樹が音もなく圭介から繋がりを断つ。  涙が止まらない。悔しいのか悲しいのか、分からないけれど涙が止まらない。ひっくひっくとしゃくり上げながら起き上がると、ベッドを降りて、その足で荷造りを始めた。  バックパックに次から次へと着替えや必要な物を詰め込んでいく。そんな圭介の様子を樹は何も言わずにただじっと見ていた。  やがて、バックパックがぱんぱんに膨れ上がると、それを持って立ち上がった。玄関へ向かって歩き出すと。 「圭介……」  そこで樹に声をかけられた。今夜初めて名前を呼ばれた。圭介は振り返らなかった。 「……さよなら」  背を向けたまま一言だけ呟くと、そのまま部屋を後にした。

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