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第5話 ④

「おまたせ。できたよ」  由奈が、持ってきた鍋を小さなコタツの上へと置いた。 「うわっ、うまそう。鍋焼きうどん?」 「うん。温まるかなと思って」  いただきまーす、と挨拶をして食べ始める。普通にうまい。うまいのだけど。  やっぱ、樹の方がうまかったな。  由奈の作ってくれたご飯を食べる度、そう思ってしまう。そして、樹の作ったご飯が恋しくなってしまう。由奈に悪いと思いながらも。どうしても樹と比べてしまうのだ。 「おいしい?」  そう笑顔で聞かれて、由奈が望んでいる通りの言葉を返す。 「めっちゃ、うまい」 「ほんと? 良かった」  どこかで罪悪感に似た気持ちが生まれる。そして。 「あっ……あん……圭介……」  由奈のふくよかな身体に手を這わせる。敏感な箇所を撫でる度に、由奈が大きな声を上げた。  由奈とはもう何度もこうして身体を重ねているけれど。未だに最初に関係を持った時に感じた違和感はそのままだった。  由奈には何の不満もない。むしろ自分には勿体ないぐらいだと思っている。だけど。どんなに深く交わっても。あの、樹との交わりのような(最後までしていないにもかかわらず)快感を得られることはなかった。  由奈を抱きながら、樹の手の感触を思い出す。軽く口角を上げて笑う樹の顔が浮かぶ。  そう。樹のあの嫉妬に満ちた目を見た時。  自分は、溜まらなく、それを快感だと思ってしまったのだ。心が震えるほどに。

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