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第5話 ⑥
「死にそうな顔してるね」
突然、後ろから声が降ってきたが、もう驚きはしなかった。
「……亜紀さん、また来たの?」
「何その言い方。来ちゃ迷惑なわけ?」
「そういうわけじゃないけどさ。幽霊なのにほんと堂々と現れるから」
「別にいいじゃん。どうせ圭介くんしか見えないんだから」
そう言って、亜紀がすっと圭介の前に回ってきた。少しふて腐れたような顔をしている。
「ちょっとさぁ、あんまりじゃない? 圭介くん。いくら樹とうまくいってないからって、私にまで冷たくすることないでしょ?」
「別に冷たくしてはないって」
「どうだか」
バイトからの帰り道。由奈のマンションへと向かう途中に亜紀が突如現れたのだった。圭介のアパートを出てからも亜紀は自由気ままに圭介に会いにきた。
樹から聞いているのかは分からないが、圭介と樹の間に何か今までにはない不穏な空気が漂っていることは分かっているようだった。まあ、圭介が家を出た時点で誰でも分かるのかもしれない。
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