67 / 132
第5話 ⑩
「というわけで、時間が勿体ないよ、お互い。だからとっとと別れて、樹んとこ戻りなよ」
「……そんな簡単にできるわけないじゃん」
「なんで?」
「まず、俺、樹のこと許したわけじゃないから。亜紀さんがどこまで聞いてるか知らないけど、無理やり襲われて、そんな相手のところに帰りたいって思う方がおかしいだろ?」
「襲われたの?」
「……まあ」
「ふーん。とうとう、樹もキレちゃったんだ」
「それに……俺、さっきも言ったけど自分の気持ち認めたわけじゃないから」
「…………」
「そんな簡単じゃないんだって」
そう亜紀に言い残し、再び歩き出した。後ろから亜紀の呟くような声が聞こえた。
「樹……いなくなっちゃうよ」
その言葉に、思わず足が止まる。ゆっくりと振り返った。真正面から亜紀と目が合う。
「あいつ、圭介くんが出て行ってから、生気一度も吸ってないから。私とか岡田が心配で行っても完全無視だし。ただじっと寝てるんだよ。圭介くんのベッドの上で。とりあえず応急処置でもなんでもいいから誰かの生気吸えって何度言っても聞かないし」
「だけど……じっとしてたらある程度は回復できるんじゃないの?」
「それは、本人に生気を吸う意思がある時だけ。別に人からだけじゃないから。植物とか、動物とか、それこそ人が集まるような場所は生気がそれなりに漂ってたりするからそれを少しずつ取り入れることで復活はできるんだよ。アパートは人が密集してるし。でも、あつはそれすらもやろうとしてない。段々弱ってきてて……たぶんもう限界に近いよ」
「……限界って……」
「完全に消えちゃうまで。もちろん成仏じゃない。ただ、消えるの」
「…………」
「そしたら、本当にもう二度と会えなくなるよ」
もう二度と会えなくなる。
そう言われて、ぎゅっと、胸の奥が掴まれたような息苦しさを感じた。
「……たぶん、もう1週間も持たないと思う」
「え……」
亜紀が真剣な顔つきで圭介を見ていた。
「だから。ちゃんと自分の気持ちに向き合って、よく考えてね」
後悔しないように。そう続けて、亜紀がふっと消えた。
真夜中近くの人気のない道で。圭介はそのまま帰る気にもなれず、しばらくただじっとそこに立っていた。
ともだちにシェアしよう!