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第5話 ⑬
マンションのエントランスを出てすぐ。なんとなく視線を感じて道路を見渡す。
あれ。
電柱柱の後ろに人影が見えた。正確には、隠れているつもりが全く隠れ切れていない人影とも言える。
「何してんの? 岡田くん」
大きな声で人影に声をかけると、分かりやすくビクッと反応してその人影がひょいっと姿を現した。そそくさと圭介のところまで走り寄ってくる。
「あれ? バレてました?」
「丸見えだったけど」
「あ、そうでした?? あはは、あんま昼間に出かけることないから、隠れるの難しくて。夜なら暗いから簡単なんですけど」
「でも、見えてるの俺だけじゃん。隠れなくてもいいんじゃない?」
「あ、まあ、そうなんですけど」
なぜかしどろもどろになりつつ岡田が応えた。
「……もしかして、岡田くん。俺の見張り頼まれた? 亜紀さんに」
「え?? いや、その……」
「俺が自分のアパートに戻るかどうか」
「えっと……その……はい」
あっさりと岡田が認めた。
「亜紀さん用事があってずっとは圭介くんに付いていられないから後は頼むって」
「ほんとに……亜紀さんはお節介だな」
「違いますよ」
「え?」
岡田が真剣な顔で反論した。
「お節介じゃないです。亜紀さんは、圭介くんが心配なんですよ」
「…………」
その時、圭介を不審な顔でじろじろ見て通る通行人と目が合った。傍目からは圭介が1人でぶつぶつ独り言を言っているように見えているのだ。
「岡田くん。とりあえず、家入る? 俺のマンションじゃないけど」
「あ……はい」
そう言って、再びマンションの中へと戻った。
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