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第5話 ⑭

 岡田は、お、お、おんなのこの部屋は緊張します~、と言いながらおどおどと部屋の中へと入ってきた。 「お茶……は要らないか」 「あ、はい」  2人でローテーブルを挟んで座る。岡田は終始きょろきょろと由奈の部屋を見回していた。 「岡田くんも浮遊霊だから、色んなとこ行けるんだっけ?」 「そうですね。亜紀さんほど強くはないんで、行ける範囲は限られてますけど。ここは僕の行動範囲内なので」 「普段はどこをウロウロしてるの?」 「え? あ、そうですね……。まあ、死んだ経緯が経緯なので、歓楽街が多いです」  とちょっと恥ずかしそうに岡田が答えた。そこで、岡田が人生初の風俗へ行く途中で事故に遭って命を落としたことを思い出した。 「それって……覗き?」 「まあ……そうですね」 「そっか……」 「あ! でも、圭介くんと彼女さんのはたまーにしか……。亜紀さんに誘われた時だけ……」 「……もういいよ。今更驚かないし」 「すみません」 「で、もし俺が家に戻らないようだったらどうするの?」 「あ……亜紀さんには、圭介くんに取り憑いてでも連れ帰れって言われてたんですけど……」  そこで、岡田は困ったように笑って圭介を見た。 「でも。こういうことは、無理にしても意味ないですしね」 「…………」 「圭介くんの意思で帰らないと。それは樹くんも望んでいることだと思いますし」 「ほんとにそうかな……」 「え?」 「樹は……本当に俺が帰ってくることを望んでんのかな」 「…………」 「変な風に別れちゃったし。俺、『さよなら』って言っちゃったし。今更、俺が戻っても、樹にとっては面倒なだけじゃないのかな。だったら、俺がアパートを引き払って別の誰かが借りた方がいいのかもしれない」 「……戻ってきて迷惑だと思っている人が、あんな風になったりしないと思いますよ」 「あんな風?」 「生き延びる……って言ったら変ですけど、幽体をキープするための行為は全て捨てて、ただじっと消えるのを待ってるなんてしないと思います。圭介くんのことがどうでも良かったら今頃さっさと他の人の生気吸ってピンピンしてますよ」 「…………」 「何を圭介くんにしてしまったのか知りませんけど、樹くんはきっともの凄く後悔してるんだと思います。だから、もう自分が存在する権利も意味もないって思っているんじゃないんでしょうか」 「……そんな……樹みたいに我が儘で自己中な奴がそんな風に思うわけないって……」 「そうでしょうか?」  岡田は圭介の言葉をはっきりと否定するニュアンスでそう言った。

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