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第5話 ⑮

「圭介くん。僕ね、童貞なんです」 「へ?」  突然話を変えた岡田に拍子抜けする。しかし、岡田はしごく真剣な顔でこちらを見ていた。 「それは……知ってたけど……」 「生前、僕には好きな子がそれなりにいました。好きな子だけは結構いました。でも、キスどころか付き合えたこともないし、セックスなんて夢のまた夢でした」 「岡田くん……」 「それで、素人童貞でもいい。とにかく経験がしてみたい。そう思って風俗に初めて行く途中で交通事故に遭ってしまったんですけど。でも、今思えば、風俗に行った後じゃなくて良かったなと思うんです」 「……どうして?」 「僕は残念ながら人に愛されたり、自分の愛を誰からと共有したりすることは叶いませんでした。風俗に行けば、経験だけはできるけど、そこにもちろん愛はありません。もし経験していたら、自分はたぶん、もの凄く後悔にさいなまれた気がします」 「後悔?」 「はい。やっぱり素人童貞じゃなくて、初めてするなら、好きな人と、好き同士になってしたかったなって」 「…………」 「それって、簡単なようにみえてなかなか難しいと思うんです」 「……そうかな……」 「はい。自分が本当に好きな人と出会って、その人が自分のことを好きになってくれるって奇跡みたいなもんじゃないですか?」 「…………」  あ、すみません、熱くなっちゃいました。そう言って、岡田が恥ずかしそうに笑った。 「まあ、そんなわけで。死んでも童貞のままですけど。それはそれでのんびりやっていこうかなと」 「……そう」 「はい。僕はどうやらセックスできれば成仏できるわけじゃないようなので。両想いになるまで頑張ってみようと思います」 「そうか。頑張って」 「はいっ。ありがとうございます!」  ニコニコと岡田が笑った。こうしてみると、オタクの雰囲気が全面に出ているので気づきにくいが、岡田はこのぶ厚い眼鏡を取れば、ルックス的にはそこそこな顔をしている。性格もいいし。  この先、亜紀さんと進展があるといいな、と圭介は思った。

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