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第5話 ⑯
「あ! そんな、僕のことはどうだっていいんです!」
岡田がはっとした顔をして慌てて言った。
「圭介くんと樹くんのことです!」
「……いや、俺らのことは別に……」
「別にじゃないです! えっと、僕が言いたかったのは、圭介くんは樹さんにとってそういう人だってことで」
「そういう人って……」
「だから、本当に好きな人ってことです」
「…………」
「これはあくまで僕の見解なんですけど。樹くん、たぶん僕と一緒で、あ、童貞じゃないですけど、生前に本当に好きな人と出会って愛されたことがないんじゃないかって思うんです」
「樹が?」
「はい。樹くんは、モテたと思いますから、寄ってくる人たちはいっぱいいたかもしれませんけど。捻くれた性格ですし、あの人に我慢強く付き合える人ってなかなかいないと思いますし。結局のところ、樹くんの容姿に惹かれてくるだけで、樹くん自身を理解して受け止めてくれる人っていなかったと思うんです。それを、樹くんも分かっていて、だからもっと捻くれちゃったのではないかと」
「……岡田くん、めちゃめちゃ分析してるね、樹のこと」
「僕、樹くんのファンなんで」
「はあ……」
「樹くんってとっつきにくいですけど、本当はとっても人想いでいい人ですよね」
圭介くんも分かっていると思いますけど。そう言って岡田が笑った。
「樹くんのそんな捻くれた性格は、圭介くんに出会って変わったんだと思います」
「俺……?」
「そうですよ。圭介くんは自覚がないかもしれないですけど。圭介くんは相当我慢強い人ですし、寛大な人ですよ」
「そうかな?」
「はい。もう、樹くんにぴったり。あの我が儘放題なのを、文句言いつつも許してあげちゃうわけですし、なんやかんや言って体も許しているわけですし」
「……最後まではしてないけど」
「そこは関係ないと思いますよ。要はお互いに心を開いているかどうかで」
「はあ……」
「そんな風に樹くんの全てを認めて受け入れてくれる人は生前含めていなかったんじゃないでしょうか。そんな圭介くんに樹くんが惹かれるのは頷けます」
「そう……かな」
「はい。樹くんはたぶん、初めてのことで戸惑っているんだと思います。自分が誰かを本気で好きになったこともなかったわけですし。どう圭介くんに接したらいいのか分からなくなって、圭介くんに彼女ができたことでもう歯止めが利かなくなったんだと思います」
「…………」
「で、圭介くん次第です」
「……俺?」
「はい。もう分かっていると思いますけど。この件は圭介くんの采配に託されています」
と、まるでビジネス商談やスポーツ解説でもしているかのような口調で岡田がはっきりと口にした。
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