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第5話 ⑲
息が苦しい。駅からバックパックを背に全速力で走る。すれ違う主婦や小さな子供たちが何事かという顔をして振り向いて圭介を見た。
そんなことはお構いなしに、足を前へ前へと繰り出す。
見慣れた景観のアパートが視界に入ってきた。走りながら、ごそごそとポケットの中の財布を探る。その中に入れておいた鍵を取り出した。アパートの階段を1段飛ばしで駆け上がる。
はあ、はあ、と息を乱しながら、久しぶりに自分のアパートの扉の前に立つ。鍵を鍵穴に差して開錠しようとしたが、鍵がかかっていなかった。もしかして、圭介が飛び出したままになっていたのだろうか。
圭介は扉を勢いよく開けると、中へと飛び込んだ。
「樹?」
靴を脱ぎながら部屋の奥へと声をかけるが、返事はなかった。
部屋の中は、昼間にもかかわらずカーテンが閉まっているせいか薄暗かった。いつもの冷気をあまり感じない。生温い空気が漂っていた。
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