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第5話 ⑳
なんとなく、ゆっくりと歩を進めた。あれほど会いたいと思っていたのに。いざ、樹がすぐ近くにいると思うと圭介の体を緊張が支配していった。
「樹……?」
ベッドの上に。薄らと人影のようなものが見えた。全く動くこともなく、横たわった影。よく見ると透けて向こう側がはっきり見える状態だった。
圭介はバックパックを床に下ろすと、その人影に近寄った。
「樹……」
樹は目を閉じて、ただそこに横たわっていた。
全身透けていて、今にも消えそうなくらい薄かった。圭介がそこにいることに気づいていないのか、反応がない。
樹へと手を伸ばす。柔らかった樹の髪に触れようとしたが、圭介の指はそのまますり抜けて触れることができない。
ぐっと、圭介の中から熱いものが込み上げてくる。
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