77 / 132

第5話 ⑳

 なんとなく、ゆっくりと歩を進めた。あれほど会いたいと思っていたのに。いざ、樹がすぐ近くにいると思うと圭介の体を緊張が支配していった。 「樹……?」  ベッドの上に。薄らと人影のようなものが見えた。全く動くこともなく、横たわった影。よく見ると透けて向こう側がはっきり見える状態だった。  圭介はバックパックを床に下ろすと、その人影に近寄った。 「樹……」  樹は目を閉じて、ただそこに横たわっていた。  全身透けていて、今にも消えそうなくらい薄かった。圭介がそこにいることに気づいていないのか、反応がない。  樹へと手を伸ばす。柔らかった樹の髪に触れようとしたが、圭介の指はそのまますり抜けて触れることができない。  ぐっと、圭介の中から熱いものが込み上げてくる。

ともだちにシェアしよう!