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最終話 ③
はぁーっ!と大きな息をはきながら荻がソファに勢い良くもたれかかった。
「なら良かったー。もう俺、圭介が由奈ちゃんとの別れがショックで自暴自棄になってクスリに手でも出したのかと心配でさー」
「飛躍し過ぎだって。それに……俺から別れたんだし」
「え?? そうなの?」
「そうだけど……」
約1年前のあの時。樹と気持ちを確かめ合ってすぐ、由奈に別れを告げたのだ。最初、由奈は突然の圭介の別れ話にただ驚いていた。が、圭介が『好きな人ができた』と正直に告げると、急に態度を変えて激しく圭介を責めてきた。
『あの夜、その女といたんでしょ??』
あの夜。樹と気の済むまで抱き合った夜。圭介の携帯に何度も電話してきたのは由奈だった。もちろんそれが由奈からだと分かっていた。分かっていて、出なかったのだ。まあ、出る余裕もなかったのだが。
『……そうだね』
当たっているので、そのまま肯定した。が、それが火に油を注いだようだ。圭介の他に男がいたことは棚に上げて、由奈に、信じられない、裏切り者、あんなに世話してやったのに、と罵声を浴びせられた。由奈の変貌ぶりには驚いた。でも、これが彼女の本性だったのだろう。
ここで、由奈の浮気相手(亜紀の話だとそちらが本命だったらしいが)のことを持ち出したところで、ますます泥沼の言い合いになることは目に見えていた。圭介はあえてそれには触れず、ただ、由奈の怒りを受け止めた。
何を言っても冷静な対応をする圭介に嫌気が差したのか、ぶつける言葉がもうなくなったのか、最後は由奈が、ふんっと、踵を返して去っていった。
それが由奈と言葉を交わした最後になった。
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