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最終話 ⑤

 結局、荻と別れてからやろうと思っていたレポートも、その後残っていた講義も、全てほっぽり出して自宅へと戻った。早足でアパートの階段を上る。 「ただいま」  声をかけて中に入った。 「おかえり」  会いたかった顔が笑顔で迎えてくれた。その半透明の体に向かって勢いよく突進する。ふっと、樹が体を有体化させたタイミングで抱き付いた。 「おっ……と」  しっかりとした存在感で樹が圭介を受け止めてくれた。樹の腕の中から樹を見上げる。至近距離で目が合った。軽く樹が微笑んだ。 「早かったな」 「……早く会いたくなったから」 「……そうか。素直じゃん、圭介」 「素直でいない理由がないし」  そう言って、樹に唇を重ねた。ゆっくりと時間をかけてキスが深くなっていく。

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