96 / 132
最終話 ⑧
圭介が食べ終わるまで、いつも樹は圭介の傍で圭介を眺めているのが常だった。理由を聞くと、圭介が本当においしそうに食べるからそれを見ていたいのだそうだ。
夕食の片付けは圭介の役割だった。丁寧に皿を洗う間、樹はいつもPCで作業をしている。
「俺、風呂入るわ」
作業に集中している樹を邪魔したくなかったので、風呂に入ることにした。声をかけると、樹が振り返った。
「一緒に入るか?」
「いいよ、まだ途中だろ? 終わらした方がいいんじゃない?」
「……そうだな」
その樹の反応に少し違和感があった。いつもなら、後でいいし、とかなんとか言って一緒に入ろうとする(そしてイチャイチャに発展する)ことが多いのだが。樹が少し考えた後、こちらを見た。
「分かった。先終わらすわ」
「……うん」
PCの画面に向き直る半透明な樹の背中を見つめる。ほんの少し、寂しさを感じた。
ともだちにシェアしよう!