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最終話 ⑨

 体を洗った後、ゆっくりと湯船に浸かる。ぼうっと浴室の壁を見ながら、樹とのことを考える。  樹と出会って約1年半。気持ちが通じ合ってからは1年。一見、他のカップルと何にも変わらない生活に見えるけど。2人には決定的に他のカップルとは違うところがある。  1人は生きている人間で、1人はもう生きていない人間だ。  もちろん、こんな関係になる前にそれは分かっていたことだった。圭介自身、幽霊と恋愛関係になることなんて思ってもみなかったし、樹への想いを認めるだけでもとても勇気が要ることだったのだ。 『障害なんて、後から考えたらいいじゃん。とりあえずくっついちゃえばいいじゃん』  亜紀にそう言われて。岡田にも後押しされて覚悟はできたつもりだけど。  でも。このままで良いわけはない。なぜなら。このままの2人の関係にはゴールがないから。結婚ができるわけでもないし。いや、それ以前に。  樹はずっとあのままだけれど。圭介は確実に歳を取っていく。老いていく。そしてやがて死んでいく。  そう考えただけで、ぞっとした。それは嫌だ。でも、だからと言ってどうしようもないではないか。  考えることを後回しにした『障害』は、圭介にとっては越えることは不可能なものだ。  きっとそれは、樹にとっても同じで。  付き合い当初は流れに任せてただお互いしか見ていなかった。でもこうして少し時間が経ち、状況が見えるようになってくると、2人の間の『障害』がくっきりと浮き彫りになった。  ただ、それを樹が自覚しているか、どう思っているかは分からなかった。このことについて樹と話し合うことが怖いのだ。樹からもその話題を持ちかけられたこともない。  2人とも不自然なくらいにその話題を避けながら、こうして関係を続けているのだ。

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