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最終話 ⑪

 グツグツと鍋の中で湯が沸くのをぼけっと見ていた。鍋の中からひっきりなしに立ち上る湯気は、そのまま樹の顔を通り抜けて行き場をなくしたかのように不安定に漂っては消える。  圭介のいない圭介の部屋は静かだ。毎日のことなのに一向に慣れない。圭介が一歩、玄関から出た途端にもう圭介に会いたくなる。  昨晩、風呂で見た圭介の痩せた体を思い出す。この1年でかなり肉がそげ落ちてしまった。それもこれも、自分のせいだと思うと心が痛む。  自分の必要な生気と、圭介を『生かしておく』ために必要な生気のバランス。気をつけて取ってきたつもりだった。しかし少しずつそれが崩れ始めていた。圭介に求められると、気をつけなければと思いつつも応えてしまう。キスしてやりたくなるし、抱き締めてやりたくなる。繋がってやりたくなる。  だがそれに応えれば応えるほど、圭介の負担は増える。有体化するために樹がより多くの生気が必要となるからだ。  他の奴で補う選択はない。圭介が嫌がるからだ。ならばと空気中の多種多様な生気などをちまちまと取ってはいるが、それだけで補えるはずもない。  そのため、自分が我慢できるギリギリのところまで生気を節約し、どうしても補充が必要なレベルになった時だけ圭介と抱き合うことに決めた。毎日のように迫っていたのに、突然自分が態度を変えたことを圭介がどう思っているのかは知らない。なんとなく聞けなかった。

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