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最終話 ⑬

「お湯、沸いてるよ」  横から突然声が聞こえ、はっと我に返った。亜紀が不思議そうな顔でこちらを見ていた。 「どうしたの? 樹がぼけっとしてるのなんて、珍しいじゃん」 「……いや、何でもない」  右手首から先を有体化させて、出汁を取るための鰹節と昆布を入れた。火加減を調整してからちらっと亜紀を見る。 「久しぶりだな」 「そうだね。最近、色んなところフラフラしてたからさ」 「そうか」  大して興味もなかったので素っ気なく答えると、亜紀が不満げな声を上げてきた。 「なにその返し。嘘でももうちょっと長い言葉で返してよ」 「なに、なんか聞いて欲しいことでもあるわけ?」 「ない」 「ならいいじゃん」 「そうだけどさ~。ほんと、圭介くん以外には相変わらず塩対応だね」 「いつものことだろ」 「あーあ。やっぱ、圭介くんいないとつまんない。樹だけだと空気がギスギスするし」 「だったら来んなよ」 「……だって、聞きたいことがあったんだもん」 「聞きたいこと?」 「うん」  亜紀の表情が突然真面目なものに変わる。 「なんだよ」 「どうするの?」 「は?」 「圭介くんとのこと」 「…………」 「もう限界でしょ。圭介くん」 「…………」 「分かってたことだけどさ。こんな早いとは思わなかったし。樹はちゃんと考えてんのかなって思って」 「……考えてるよ」 「……そう……で、どうするつもり?」 「……まだ迷ってる」 「それって……選択があるってこと?」 「まあな」 「……そっか」

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