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最終話 ⑯

「ただいま」  いつものように挨拶して部屋へと入る。その途端、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。 「おかえり」  半透明の樹が台所に立っていた。 「いい匂いだな」 「今日は煮物」 「うわぁ、いいじゃん。楽しみ」  樹の方へと近寄っていくと、ふっと樹の体が有体化した。後ろからぎゅっとその体を抱き締める。 「いつもありがとう」 「いいよ、お礼は。好きでやってんだから」 「でも、嬉しいから」 「……そうか」  樹は微笑みながらも鍋から目を離さずにいる。 「先に風呂入ってきたら? まだ少し時間かかりそうだから」 「うん、じゃあ、そうする」  素直に言うことを聞いて、浴室へと向かった。

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