104 / 132
最終話 ⑯
「ただいま」
いつものように挨拶して部屋へと入る。その途端、美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
「おかえり」
半透明の樹が台所に立っていた。
「いい匂いだな」
「今日は煮物」
「うわぁ、いいじゃん。楽しみ」
樹の方へと近寄っていくと、ふっと樹の体が有体化した。後ろからぎゅっとその体を抱き締める。
「いつもありがとう」
「いいよ、お礼は。好きでやってんだから」
「でも、嬉しいから」
「……そうか」
樹は微笑みながらも鍋から目を離さずにいる。
「先に風呂入ってきたら? まだ少し時間かかりそうだから」
「うん、じゃあ、そうする」
素直に言うことを聞いて、浴室へと向かった。
ともだちにシェアしよう!