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最終話 ㉗

 暗闇の中、目的の場所に向かってひたすら羽を動かし続ける。人間が走って向かうよりは早いが、それでも時間はかかる。  ぽつ、と大きな水滴が体にぶつかってきたなと思った途端、大粒の雨が降り出した。心の中で舌打ちする。雨の中でも飛ぶことはできるが、体の熱が奪われるのであまり嬉しくない環境だ。動物に憑くと不思議な感じがする。半分は本能で、半分は人間のような感情が残る。  ずっと動物に憑いていると、本能の部分が多くなっていくとは聞いたことがある。人間に憑くことに疲れた幽霊がその道を選ぶこともあるが、大抵はコントロールしやすいという理由で悪霊が動物を選ぶことが多い。  樹にとって動物は最終手段ぐらいにしか思っていなかったが、まさか本当に『最終手段』としてとり憑く日がくるとは考えてもみなかった。  徐々に毛の隙間に水分が染み込んできて、体が冷えてくる。羽を動かすことが苦痛になりかけた時。  視界に見慣れたアパートが見えてきた。  必死で全身を動かした。圭介の部屋のベランダの縁に舞い降りる。そこで、雀から幽体を離脱させた。急いで部屋へと入る。 「圭介っ!!」  入ってすぐ。圭介がベッドに横たわっているのが見えた。が、その圭介の変わりように思わず足が止まる。 「樹くん!」  傍にいた岡田が驚いたような、喜んでいるような、それでいて悲しみも含んだ複雑な表情で樹を見た。

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