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最終話 ㉚
「樹」
「ん?」
「亜紀さんから全部聞いた」
「…………」
「俺たちには一緒にいる方法が1つしかないこととか、なんで樹が急にいなくなったのかとか」
「……ほんとごめん」
「だからいいって。俺、樹の気持ちも分かるから。そりゃ、目の前で人が死んでくのなんか見たくないだろうしさ」
「それだけじゃない」
「うん、知ってる。でも、樹、考え過ぎ」
「…………」
「確かに家族は大事だし、友達も好きだけどさ。そこに樹がいなきゃ、意味がないんだよ」
「圭介……」
じっと、圭介に見つめられる。
「樹がいないなら、生きてる意味ないんだよ」
妙な感覚が体の中を駆け巡った。何だろうか。よく分からない。温かいような、くすぐったいような、それでいて泣きたくなるようなそんな感情が溢れそうになるこの感覚。
ああ、そうか。
この初めて感じる感覚は。
愛おしい。という感情が抑えきれなくなる感覚なのか。
「だから……樹と一緒にいられる可能性が少しでもあるなら……俺はその一択に賭けてみたい」
「……本当にいいのか」
「当たり前じゃん。最初から諦めたってしょうがないだろ」
「…………」
「だけど、1つ聞きたいことあんだけど」
「何?」
「俺は……生気がなくなればきっと死んじゃうんだろうし、この世に未練もないからそのまま成仏できると思うんだけどさ」
「家族は?」
「ああ、心配には心配だけど。未練はないよ。樹たちのおかげで、十分お金も残してあげられるし。親父のことがあるから、家族がいなくなることの免疫はあの人たちあるしね」
「……そうか」
「それで、樹はどうやったら成仏できるのかなって。何か未練があるからこの世に残ってるわけだろ? そしたら、その未練を解消しなかったら成仏できないよね?」
「ああ、それは大丈夫。解決したから」
「そうなの?」
「ん……。前はなんで俺がここに残されたのか分からなかったけどな。もう分かった」
「何?」
「……俺、それなりの家に生まれて、不自由なく生きてきたけど。1つだけ手に入らなかったもんがあったんだよ」
「手に入らなかったもの?」
「愛情……っていうか。親にも愛されてるって思ったことねぇし、友達とか本気で付き合ってる相手もいなかったし。自分では自覚なかったけど、それが欲しかったんだろうな」
「……そうか」
「圭介に会って分かった。それを圭介がくれたから」
目を合わせてそうはっきりと告げると、圭介が嬉しそうに笑った。
「だから。たぶん、俺も成仏できる。お前が死んだら、ここにいる必要もないわけだし」
「そうか……。じゃあ、できそうだな、一緒に」
圭介が時間をかけて体を起こした。慌てて手を再び有体化させて支える。
「おい。大丈夫か」
「うん。さっき、結構寝たし。スープも飲んだから、動くぐらいの余力はあるよ」
「どうしたい?」
「風呂、入ろうかなと思って」
「は? 風呂?」
「そう。俺、ずっと入ってないから。お前は匂わないだろうけど」
死ぬなら綺麗にしときたいじゃん?と、圭介がゆっくりとだがベッドから立ち上がった。
「手伝うわ」
「ありがとう」
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