127 / 132
最終話 ㊴
圭介との最後の交わりの前に、亜紀と岡田と4人で入念に打ち合わせをしていた。樹が圭介の身の回りの後始末をすることはできない。だから代わりに全てを亜紀と岡田に託した。
圭介の遺体を長い時間、晒したくはなかった。すぐに発見されるよう、亜紀と岡田には圭介の友人を装って圭介の家族に連絡を取ってもらい、圭介と連絡が取れないと伝えて部屋を調べてもらうようにしていた。
アプリ事業は管理者が死亡しているため続けるわけにはいかないので、岡田がそっと処理して閉めることになっている。今はもう圭介の家族を少なくとも10年ぐらいは養えるぐらいの額が圭介の口座には貯まっていたので問題ないはずだ。
ふっと、岡田も姿を現した。圭介の姿を認めて、悲しそうな顔になった。
「圭介くん……」
ふと両手を見ると、手首から先がほとんど消えかかっていた。徐々に他の部分も薄まっているのが分かる。
「樹……足、消えてる」
そう言われて足元を見るともう腰から下は完全に消えていた。
成仏する時のことを想像したことはある。あっけなく消えるだけなのだろうなと思っていた。しかし意外なことに、薄まっていく自分の体に恐怖もなく、むしろ興奮に近い感情が生まれた。心が躍るような、ポジティブな感覚。
これが、未練から解放されるということなのか。
圭介と出会えて。愛し合えて。こうして成仏できることは本当に幸運なことなのかもしれない。
気づくと、もう顔以外は消えていた。振り返ると。亜紀と岡田が不安そうな顔でこちらを見ていた。
「亜紀。岡田」
「……何?」
「……はい」
2人がほぼ同時に応えた。笑顔を向けて感謝の気持ちを伝える。
「色々ありがとな」
泣き笑いに近い顔で2人が笑顔を見せた。
「じゃあな」
亜紀と岡田が視界から消えた。と同時に、樹の意識も完全に無となった。
ともだちにシェアしよう!