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第2話 ⑫

 苦労してきた圭介からすると、なんともまあ適当な人生を送ってきたんだなと思えるのだが、料理の腕は確かに凄かったようだ。  樹が作る料理はどれも本当に美味だった。食べると癖になるというか、胃袋を掴まれた感は否めない。きっと、この手で生前もお金持ちのお姉様(お兄様も)方の胃袋もがっちり掴んでいたのだろう。  その1人になるのは癪だが、この料理のおかげで自分の食生活がなんとかまともなものになっているという事実もあるし、ギブアンドテイク的な感じで、この料理が時々食べられるなら生気提供ぐらいいいか、と思う自分がいた。 「いただきまーす!」  大きな声で挨拶をしてから箸を取る。目の前にはご飯に豆腐と油揚げの味噌汁、圭介の好物であるひじきの入った卵焼き、焼いた塩鮭、鶏肉入りの筑前煮まであった。1つ1つ、大きな口を開けてかぶりつく。うまみが口中に広がった。 「うまっ」 「美味いか?」 「おお、めちゃめちゃ美味い!」 「そうか……」  樹がふと笑った。いつもの小憎たらしい笑顔ではなくて、自然に出た優しい笑顔に圭介はなんだか嬉しくなる。  そんな顔もできるんだ。  圭介がニヤニヤしつつ樹を見ていると、樹が怪訝な顔で見返してきた。 「何?」 「いや、なんでもない」 「気持ちわる……」 「ほんと口悪……。せっかくさっき可愛いところもあんなと思ったのに」 「は? 可愛いとこ?」 「そう。珍しく可愛く笑ったじゃん、さっき」 「……なんか……ムカつくわ、その言い方」 「は? なんで?」 「馬鹿にしてんだろ?」 「してないって」 「してる」 「ちょっ! もうっ! 俺、まだ食べてるんだけど!!」 急に体が動かなくなり、握っていた箸がテーブルに落ちる。樹が近づいてきて、そのまま押し倒される。耳を甘噛みされてくすぐったくて思わず叫ぶ。 「くすぐったいってぇ! ちょっと、飯、食わせろ!」 「だめ。俺と遊んでから」 「いやいや、昨日したばっかりじゃん!! まだ朝だしっ」 「そんなの関係ないし」 樹の舌で耳の中をくすぐられて、思わず声が出る。 「んっ……」 「ほら、もう感じてんじゃん」 「違うって! もうっ! なんでこのタイミング??」 「お前が馬鹿にするからだろ」 「だからしてないって……あっ……」 「先に俺に食わせろ。お前の生気」 そう言って、舌を首筋に這わせて樹が圭介の体を下りていく。 この我が儘野郎!! 口に出すともっと面倒なことになるのは分かっているので、心の中だけで叫ぶ。このいつものパターンに対抗することもできず、心の中で大きな溜息をはいて早々に諦めた。

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