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第2話 ⑬

 大学の講義を終え、友人たちと別れてバイトへ向かう。午前中に樹の我が儘で軽く生気を取られたが、その後出かけるまで一眠りしたおかげで体力はいつもどおりに戻っていた。  電車を降り、自宅近くに位置する駅前商店街のバイト先へと足早に歩く。  急いできたせいか、バイト先にはまだ店長と先輩店員の2人しかいなかった。挨拶をしてから小さな控え室に入る。店名の入ったTシャツに着替えようと、私服を脱いでいった。  ふと、鏡に映った自分に目がいく。鎖骨辺りに視線を止め、眉を潜めた。はあっ、と大きな溜息をつく。  ほんっとに、あいつは。  好き勝手やりたい放題の居候幽霊(向こうからすると圭介が居候なのかもしれないが)にブツブツと心の中で悪態をついていると。 「うわぁ、立派なキスマーク」 「うわぁっ!!」  誰もいないはずの控え室で背後からいきなり声がして、圭介は飛び上がりそうになるほど驚いた。振り返ると、そこにいるのが当たり前みたいな顔をして半透明の亜紀が立っていた。 「ちょっと! 亜紀さん、なんでここにいんの??」 「え? さっき駅前でふらふらしてたら圭介くん見たから。付いてきちゃった」 「ふらふらって……」 「樹んとこ行こうかなって思ったんだけど。疲れてるかなと思って」 「は? 誰が? 樹?」 「うん」 「なんで?」  その言葉の意味がよく分からず、亜紀を怪訝な顔で見返した。すると、亜紀は圭介の問いには答えず、逆に聞き返してきた。

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