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第2話 ⑯
「ただいま……」
バイトを終えて、寄り道してから帰宅したため、いつもより少しだけ帰りが遅くなった。最近は電気が点いて樹(と亜紀)が勝手に寛いでいることが多かったが、今日は真っ暗でひっそりと静まり返っていた。
「樹……?」
リビングに入って電気を点けようとスイッチに手を伸ばす。ふと手に冷たいものが触れた気がした。樹の手だった。
「電気、点けるのやめてくれる?」
そう耳元で囁かれた。
「……大丈夫か?」
「ん……ちょっと、明るいのきついわ、今」
「分かった。携帯の明かりは大丈夫か?」
「大丈夫」
圭介は携帯のホームボタンを押し、その明かりを頼りに荷物を置いて、風呂に入る準備をした。そのままシャワーを浴びて、リビングへと戻る。
真っ暗闇の中、目をこらす。樹がベッドの上に寝転がっているのが薄らと見えた。圭介はベッドに近づいて脇に腰をかけた。
「亜紀さんから聞いた。有体化するのにもの凄くエネルギー使うんだろ?」
「……まあな」
「今日は復活に時間がかかってんのか?」
「そうだな。需要より供給が上回りすぎた」
「それって……。俺に飯作ってくれたから?」
「……まあ、それもあるけど。昨日と朝、2回したから」
「でも……そこで俺の生気で補充できたんじゃないの?」
「……キスとか抜くくらいじゃそんなに生気取れねーんだよ。自分の体を有体化して保つのもエネルギー使うから。とんとんか、張り切り過ぎると逆にマイナスになる」
「張り切り過ぎるって……触るのをってこと?」
「まあ」
「だったらもっと短くていいのに。俺にしつこく触らなくても」
「……感じてくれないと、量が取れないから」
「だからって、エネルギー使い過ぎるほど時間かけてしてたら大変だろ?」
「うっせーなぁ。俺が好きでやってんだから、いいだろ」
樹が苛々した声音で答えた。圭介は少しムッとして言い返す。
「言っとくけど、生気提供してんのは俺だから。お前の好き勝手ばっかりじゃ、不公平じゃん」
「だったら、圭介の好きにしてやるから、言えよ。攻めて欲しいとこがありゃ、攻めるし、激しくして欲しかったらするし」
「は? いや、そういうことじゃ……」
「俺の愛撫が気に入らないなら、もっと要求すりゃいいじゃん」
「だから。そういう好き勝手じゃなくて。俺の時間や都合も考えてヤるっていう……」
「もう嫌になった?」
圭介の言葉を遮って、樹が尋ねてきた。
「…………」
嫌になった、と答えたらどうなるのだろう。
そしたら、樹はもう自分に手は出してこないのだろうか?けれど、自分がここを出ていかない限り、生気を手に入れることはできないのではないか。樹がここから離れるのにはそれこそ膨大なパワーが必要そうだし。他でどうにもならないのなら、樹のパワーはどんどんなくなってしまうだろうし。
そうしたら、最後はどうなってしまうのだろう。
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