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その日一日、なにか特別なことが起きたということもなく、放課後、俺は埜明の委員会が終わるのを教室で一人待っていた。
朝から依織の姿はなく、よく依織とつるんでいた友人に聞くと、サボりだろうと納得のいく返答をもらった。
ちょっと顔を合わせるのが気不味かったのもあって、その言葉を聞いて少しだけホッとした。
机に突っ伏しながら少し目線を上げると、もうすぐ委員会が終わる時刻だった。
帰りの支度でもしようと席を立った時、教室の扉がガラリと開いた。
埜明が帰ってきたのかと思い振り返ると、そこには依織が立っていた。
「あれ、七瀬くん。まだ残ってたんだ。誰か待ってる?」
「埜明待ち。依織こそ、今更学校来てどうするんだよ。授業終わったぞ」
「忘れ物をね、取りに来たんだ。あと、もしかしたら七瀬くんに会えるかな?って思って‥‥」
自分の机を漁りながらさらりとそんなことを言う依織。少し驚いた。
「なんで?」
「なんでって、そりゃあ僕達恋人なんだから、一日一回ぐらいは顔見たいじゃん」
「ちゃんと昨日のこと覚えてたんだ。冗談かと思ってた」
なんとなく恥ずかしくなってしまい、依織から顔を背ける。
「冗談って。酷いなー。僕本気だよ?」
俺に近づき、手を差し出してきた。
「七瀬くんは、俺の恋人だという自覚があまりないようなので、ちゃんとはっきりさせましょう!」
そう言って、依織はなかなか出さない俺の手を強引に掴んだ。
「今から僕とデートしよう!」
「うわっ!」
俺の手を引き、依織は教室を飛び出した。
されるがままに走っていると、途中埜明の姿が見えた。
「蜂谷くん! 今日僕達デートするから、ちょっと七瀬くん借りるよ!」
「え!? う、うん!はるくんと楽しんできてね」
赤面しつつ、嬉しそうに手を振る埜明。
あまり運動が得意ではない俺は、依織についていくので精一杯。
校舎を飛び出て、学校の目の前にあるバスの停留所に着くと、今にも発車しそうなバスが。
「二人乗りまーす!」
「ま、待てって! はぁ」
「ギリギリセーフ。七瀬くん定期券持ってる?」
「持っ‥‥て、る。ゲホッ、オエッ!」
ゼェゼェと息を切らして、呼吸を整える。
「体力なさすぎ。吐かないでよ?」
「どこに行くんだよ‥‥」
「え、決まってんじゃん。ス○ッチャだよ。オッケー?」
あれからずっと掴まれていた手をグッと引かれ、依織との距離が近くなる。
「う、うん」
ふいっと顔を逸らし、手を離した。
どんな気持ちで俺を誘ったのか。
やっぱり遊びなのかもしれないけど‥‥。
「そ、よかった。楽しみだね、七瀬くん」
無邪気に笑う依織に振り回されるのも悪くない、なんて。
実はデートに誘ってくれたのが嬉しかった、なんて。
そう思ってしまう俺は、やっぱり依織に甘いんだなと自覚する。
俺も楽しみ‥‥。
心の中で呟き、窓から見える景色に視線を移した。
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